NIPPON STEEL日鉄溶接工業株式会社

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技術情報溶接Q&A

Q007最近、N(窒素)添加型のステンレス鋼がよく使用されているようですが、Nの効果について教えて下さい。また、N添加型のステンレス鋼に対応する溶接材料について教えて下さい。

(ニッテツびいど No.108 1994 Spring)
ステンレス鋼にNを添加すると一般的に次のような諸特性の改善が図れます。

①引張強さ、降伏点が高くなる
引張強さが高くなることはもちろんですが、それにもまして降伏点(ステンレス鋼の場合は、降伏点が明瞭でないため一般には0.2%耐力あるいは0.1%耐力で評価する)が高くなるので、降伏強さで設計される構造材として有利です。

図1にSUS304とNを添加したSUS304N2の強度を比較して示しましたが、常温強度で約200N/mm²、0.2%耐力で約250N/mm²高くなり、高強度構造用材として期待できるとともに、高温でも高い強度を保ちますので、高温強度を必要とする環境にも利用できます。

図1

同じように、固溶強化により強度を高くする元素としては、C(炭素)が知られていますが、Cの固溶限はたかだか0.2%程度であり、これ以上添加しても炭化物が析出し脆化の原因になります。Nの固溶限は約0.4%あり(Cr含有量により変わる)、この点でも強化元素として有利です。


②耐食性が向上する
全般的に耐食性は向上しますが、特に耐孔食性、耐すきま腐食性の改善が顕著です。図2は、高Cr-Niオーステナイト鋼の耐孔食性におよぼすNの効果を示していますが、約0.03%以上のNがあると孔食は全く発生しなくなります。そのため、高強度、高耐食性を必要とする化学プラント、各種タンク頬に多く使われるようになってきました。

図2

このようにN添加により諸特性の改善が可能ですので、今後各方面にますます利用されるようになるものと思われます。1991年に改正されたJISG4304ではN添加型ステンレス鋼がいくつか追加されています。また、新日鐵ではYUSシリーズの中でNを添加し、強度、耐食性を向上させた鋼材を数種類生産・販売しております。

N添加型ステンレス鋼に対応する溶接材料のJISはまだ制定されておりませんが、当社では新日織のYUSシリーズに対応する溶接材料を主体に共金系の溶接材料を提供しております。

表1に、今後建築構造物溶接用に需要の伸びが期待できるSUS304N2用の溶接材料を、従来のSUS304用溶接材料と比較して示しました。各溶接法とも、耐力、強さが著しく向上していることが分かります。

表1

この様にNを添加することによってさまざまな特性が改善できますが、溶接をするうえで、若干の注意が必要になってきます。

その一つとして、多層盛をすると通常材に比べ気孔が発生しやすいことが挙げられます。溶凍材料はNの固溶度が高くなるよう設計されており、通常の溶接では特に支障はありませんが溶接法によっては過度に積層しますと、気孔が発生することがありますので注意が必要です。表1に示す溶接材料のなか、フラックス入りワイヤは薄、中板用に設計されていますので、厚板の溶接の場合はTIG、SAW、SMAWをご利用下さい。

次に、Nはオーステナイト生成元素ですのでNを添加すると溶着金属のフェライト量が低くなりすぎて割れ発生の原因ともなりますが、当社の溶接材料はNi、Crなどを調整し、フェライト量を適正に保っておりますので安心してご利用いただけます。ただし、異材溶接に使用しますと相バランスが崩れ、微小割れが発生することがありますので注意が必要です。

以上のような点に注意して溶接していただければ、広い用途に有効に利用していただけるものと思います。

(参考資料;新日鐵カタログ)