NIPPON STEEL日鉄溶接工業株式会社

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技術情報溶接Q&A

Q046ステンレス鋼の溶接部にテンパーカラーが付きました。
このテンパーカラーはそのままにしておくと何か影響がありますか?

金属には固有の色があり、これは金属表面からの反射光の干渉によって生じるもので、酸化膜の厚さによって色調は変化します。鋼材の場合、この酸化膜は加熱温度によって色が変化します。これを一般にテンパーカラーと呼んでいます。ステンレス鋼に付着するテンパーカラーは、耐食性を良好とするCrの濃化した不働態皮膜ではなく、Feの濃化した酸化物皮膜であり、加熱温度の上昇に伴い酸化皮膜は厚くなります。最近では、この高温酸化着色のテンパーカラーを利用して、装飾品や自動車・オートバイのマフラー等、意匠性が施されたものを見かけます。

加熱温度と色調の関係を図1に示します。溶接では、溶接直後の高温なビードおよび熱影響部が大気に曝されると、温度の上昇に伴い、金色 → 赤色 → 青色 → 黒色と変化します。

フラックスを使用しないガスシールドアーク溶接のGMAWおよびGTAWは、スラグによる溶接金属保護がないため、溶接トーチから供給されるガスのシールドが不十分であると、高温の溶接ビードがすぐに大気に曝され、テンパーカラーが付着しやすくなります。そのため、溶接のままで銀色の金属光沢がある美麗ビードを得るためには、アフターシールドと呼ばれるトーチ後続のシールドガスが必要となります。また、GTAWによる初層裏波溶接では、裏側にバックシールドを用います。

それでは、テンパーカラーが付くと、どのような悪影響があるのでしょうか。これは、ステンレス鋼の特長である錆びにくいという特長を損ないやすくなります。一例として、フェライト系ステンレス鋼SUS409およびSUS436を、大気中で酸化処理した場合の処理温度と孔食電位の関係を、図2に示します。高温で大気に曝される(色の濃いテンパーカラーが付着する)ほど、耐食性が劣化する(孔食電位が低くなる)ことが分かります。そのため、テンパーカラーが付着した場合は、ワイヤブラシ処理、研磨または化学処理等の表面処理を行い、テンパーカラーを除去することが望ましいのです。
 
図1 テンパーカラーの温度と色調
図1 テンパーカラーの温度と色調

図2 孔食電位に及ぼす大気酸化処理温度の影響
図2 孔食電位に及ぼす大気酸化処理温度の影響