NIPPON STEEL日鉄溶接工業株式会社

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技術情報溶接Q&A

Q050オーステナイト系ステンレス鋼の溶接を初めて行います。炭素鋼と比べて、注意する点はありますか?

ステンレス鋼は、その物理的性質から、いくつかの注意点があります。鋼材の性質を表1に示します。ステンレス鋼は軟鋼に比べ、①電気比抵抗が4倍、②熱膨張係数が1.3倍、③融点が100℃低いことが分かります。これらの特徴を踏まえて、以下の注意が必要です。

Point 1.

ステンレス鋼は、電気比抵抗が高いため、電流を低めにする必要があります。溶極式ガスシールドアーク溶接を例に取ります。ワイヤ溶融速度MRは、アーク熱による溶融とワイヤの抵抗発熱による溶融に整理され、次式のように示されます。ステンレス鋼は抵抗Rが高いため、炭素鋼と同じワイヤ溶融速度MRであっても、電流Iが低くなります。これを炭素鋼と同じ溶接電流に合わせると、溶融量過多となり、融合不良等の溶接欠陥の原因となります。また被覆アーク溶接棒では、心線の抵抗発熱により、棒焼けしやすいため、棒長が短いとともに、使用電流が低くなっています。
 
MR = アーク熱による溶融+ ジュール熱による溶融 = aI + bRI2
(a,b:定数,I:溶接電流,R:ワイヤ突出し部の抵抗)

Point 2.

ステンレス鋼は、熱膨張係数が高いため、変形しやすい特徴があります。一例として、溶接入熱と変形量の関係を図1、2に示します。変形量は炭素鋼に比べ、横収縮:1.2~1.5倍、角変形:約3倍であり、歪みやすいことが分かります。このためサブマージアーク溶接などの大入熱溶接は、大きな変形を生じやすく、入熱低減,拘束、逆歪法等の工夫が必要となります。

Point 3.

融点が低いため、立向や上向溶接でビードが垂れやすくなります。このため、フラックス入りワイヤによるガスシールドアーク溶接では、姿勢溶接性に優れたSF-308LP等の「Pタイプ」の使用をお奨めします。

図