NIPPON STEEL日鉄溶接工業株式会社

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技術情報溶接Q&A

Q054溶接をする前になぜ予熱をする必要があるのですか?また何度くらいの予熱をすればよいのか、教えて下さい。

予熱は、低温割れの防止、硬化組織の生成防止、延性・じん性などの機械的性質の向上、変形・残留応力の低減およびブローホールの発生防止などを目的に行うものです。予熱により溶接後の冷却速度は遅くなり、冷却する時間も長くなることから、溶接金属中の水素が拡散性水素として外部に放出しやすく、熱影響部の硬さも低減されることで、低温割れが発生しにくくなります。また、予熱を行うと溶接部付近の温度勾配が緩やかになるので、溶接変形や残留応力の発生も少なくなるなどの効果があります。

標準的な実施工での予熱温度を表1に示します。しかし、鋼材の材質、板厚、継手形状、構造物部材寸法、拘束度合い、溶接方法、使用する溶接材料や作業環境条件(気温、天候など)等によっては、表中の値を参考に、予熱温度範囲の選定に留意する必要があります。

予熱方法としては、ガスバーナー、電気抵抗加熱器、赤外線電気ヒーター、炉中などの方法があります。ガスバーナーでの加熱は簡便性に富んでいますが、長時間一定温度に均一に加熱を行う場合には、サーモスタット付の電気抵抗加熱器などを用途に応じて使用することをお奨めします。また、予熱作業は、予熱温度と共に加熱速度や予熱範囲も重要です。例えば、開先部のみを加熱するのではなく、溶接線の全周の約100mm離れた範囲が所定の温度になるように幅広く加熱することが大事で、温度測定には表面温度計または温度チョークなどを用いて溶接線の両側約50mmの位置で測定して下さい。

また、予熱とは区別されますが、外気温度が低く、鋼材表面温度も低い場合や開先面に結露の恐れがある場合には、溶接を行う前に溶接線の付近を約50℃程度にいったん加熱する必要があります。

なお、使用する溶接材料についても、溶接メーカー推奨の乾燥条件や保管管理を行って取り扱って下さい。

表1 予熱温度(℃)の標準
鋼 種 溶接方法 板厚区分(mm)
t≦25 25<t≦40 40<t≦50 50<t≦100
SM400 低水素系以外の被覆アーク溶接 予熱なし 50
低水素系被覆アーク溶接 予熱なし 予熱なし 50 50
サブマージアーク溶接
ガスシールドアーク溶接
予熱なし 予熱なし 予熱なし 予熱なし
SMA400W 低水素系被覆アーク溶接 予熱なし 予熱なし 50 50
サブマージアーク溶接 予熱なし 予熱なし 予熱なし 予熱なし
ガスシールドアーク溶接
SM490
SM490Y
低水素系被覆アーク溶接 予熱なし 50 80 80
サブマージアーク溶接 予熱なし 予熱なし 50 50
ガスシールドアーク溶接
SM520
SM570
低水素系被覆アーク溶接 予熱なし 80 80 100
サブマージアーク溶接 予熱なし 50 50 80
ガスシールドアーク溶接
SMA490W
SMA570W
低水素系被覆アーク溶接 予熱なし 80 80 100
サブマージアーク溶接 予熱なし 50 50 80
ガスシールドアーク溶接
備考
1)“予熱なし”については、気温(室温の場合は室温)が5℃以下の場合は、20℃程度に加熱
2)予熱温度の標準を適用する場合の鋼材PCM(%)の条件は下記の通り
 
鋼材の板厚
(mm)
鋼  種
SM400 SMA400W SM490
SM490Y
SM520
SM570
SMA490W
SMA570W
t≦25 0.24以下 0.24以下 0.26以下 0.26以下 0.26以下
25<t≦50 0.24以下 0.24以下 0.26以下 0.27以下 0.27以下
50<t≦100 0.24以下 0.24以下 0.27以下 0.29以下 0.29以下
3)PCMの算定式
PCM = C + Si / 30 + Mn / 20 + Cu / 20 + Ni / 60 + Cr / 20 + Mo / 15 + V / 10 + 5B (%)