NIPPON STEEL日鉄溶接工業株式会社

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技術情報溶接Q&A

Q058機械構造用炭素鋼鋼材(S45C)や機械構造用合金鋼鋼材(SCM435)等を使用した機械部品加工をしていますが、溶接も自社で手掛けることになりました。
溶接材料の選定と溶接施工上の注意点を教えてください。

炭素鋼は炭素量(C量)によって表1のように低炭素鋼、中炭素鋼および高炭素鋼に分類されます。炭素鋼に特殊元素が入って特殊な性質を示すようになったものを特殊鋼といいます。この特殊鋼のうち、調質(焼入・焼戻処理)して使用するものを合金鋼、工具として使用するものを工具鋼、特殊用途に使用するものを特殊用途鋼といい図1のように分類でき、JISに規格化されている主なものを表2に示します。

これらの鋼材の中には、C量の多い中・高炭素鋼は、もともと溶接を想定しないで設計製造されている鋼材であり、溶接による急熱急冷によって熱影響部が著しく硬化し、溶接部の伸びが少なくなり、溶接割れなどの欠陥が生じ易くなるため、溶接の際には溶接材料の選定、溶接施工要領に十分注意する必要があります。

機械構造用鋼は、C量の含有量が高く低温割れが発生しやすいため、その防止のため溶接に際しては予熱・後熱が必須になります。また、これらの鋼材に対して、同一化学成分の溶接材料はなく溶接部に要求される性能によって溶接材料を選定します。

まず、ただ単に接合する場合は、低強度で耐割れ性の良好な低水素系溶接材料やステンレス鋼と炭素鋼の異材溶接などに使用する309系オーステナイト系ステンレスの溶接材料を選定します。一例を表3に示します。また、突合せ継手のように母材に近い強度が必要なときには耐割れ性を考慮しながら強度レベルの近い溶接材料を選定します。一例を表4に示します。この場合に溶接施工上で注意すべき事項の最も重要な点は、低温割れの防止対策です。これらの鋼材は含有するC量が多く、溶接すると母材の熱影響部が硬くなり溶接金属に含まれる水素が硬くなった熱影響部に拡散し水素脆化を起こし、ビード止端部やルート部などの熱影響部に割れが発生する危険があります。これらを防止するには、低水素系の溶接材料を使用し母材熱影響部の硬化防止と溶接金属中の水素を放出させるために、予熱や後熱をすることが重要です。予熱温度の目安は、鋼材の炭素当量より最適温度を設定し、溶接線を中心として100mmの範囲がまんべんなく設定温度になるまで加熱してください。脱水素を目的に行う直後熱は、溶接終了と同時に溶接部の温度が下がる前に300℃以上で1時間程度保持することが望ましく、その後、できるだけ徐冷します。600~650℃の後熱処理は、焼戻し熱処理であり、熱処理までに時間が掛かる場合や焼戻し熱処理ができない場合は、必ず300~350℃の直後熱を施してください。

次に注意すべき点は、マグ溶接で施工する場合の高温割れです。中・高炭素鋼を高電流で溶接すると母材溶込みが過大となり、母材炭素の希釈による高温割れの危険性が挙げられます。その対策としては、母材溶込みを最小にするために低電流の施工条件とすることや、母材希釈の大きい1~2層は被覆アーク溶接にて施工し、残りをマグ溶接で行うなどの工夫も必要です。

ご質問のS45CやSCM435等を溶接する場合は、表3や表4を参考にして上記に記載した施工上の注意点を守って施工してください。
 
表1 炭素鋼の分類
種別 炭素量(%) 鋼材の一例
低炭素鋼 <0.30 SS400、SM400、SM490
中炭素鋼 0.30~0.45 S35C、S45C
高炭素鋼 0.45~2.00 S55C

表2 JISによる鉄鋼材料の分類
大別 中別 小別 JIS記号例
炭素鋼 圧延鋼材 SS、SB、SV、SM
特殊鋼 構造用合金鋼鋼材 S__C、H、SCr、SMn、SMnC、SCM、SNC、SNCM、SACM、SGV、SBV、SQV
工具鋼鋼材 SK、SKS、SKD、SKT、SKH
特殊用途鋼鋼材 SUS、SUH、SUJ、SUP、SUM
鋳鋼 炭素鋼鋳鋼品 SC、SCW
構造用合金鋼鋳鋼品 SCC、SCMn、SCSiMn、SCMnCr、SCMnM、SCCrM、SCMnCrM、SCNCrM
特殊用途鋼鋳鋼品 SCS、SCH、SCMnH
鍛鋼 炭素鋼鍛鋼品 SF
構造用合金鋼鍛鋼品 SFVA、SFVC、SFVQ、SFCM、SFNCM
鋳鉄 ねずみ鋳鉄品 FC
球状黒鉛鋳鉄品 FCD
可鍛鋳鉄品 FCMB、FCMW、FCMP

表3 中・高炭素鋼を単に接合する場合の溶接材料例
母材の炭素当量
(Ceq %)
低炭素鋼用溶接材料 ステンレス鋼用溶接材料(※)
SMAW GMAW FCAW GTAW 予熱温度
(℃)
SMAW GMAW FCAW GTAW
0.40~0.49 L-43LH
S-16LH
YM-26
YM-28
SF-1 YT-28 150以上 S-309・R YM-309 SF-309L YT-309
0.50~0.59 200以上
0.60~0.69 250以上
0.70~0.79 300以上
0.80以上 350以上
※ 100℃以下の若干の予熱。
 
表4 中・高炭素鋼を母材に近い性能を望む場合の溶接材料例
鋼種 引張強さ
(MPa)
硬さ
(HB)
母材の
炭素当量
(Ceq %)
予熱温度
(℃)
後熱温度
(℃)
溶接材料
SMAW GMAW GTAW
機械構造用
炭素鋼鋼材
S30C ≧540 152~212 0.44 ≧100 L-55M YM-55C YT-60
S35C ≧570 167~235 0.49 ≧150 L-60 YM-60C YT-60
S40C ≧610 179~255 0.54 ≧150 L-62 YM-60C YT-60
S45C ≧690 201~269 0.59 ≧200 300℃ 1hr L-70 YM-70C YT-70
S50C ≧740 212~277 0.64 ≧200 300℃ 1hr L-80 YM-80C YT-70
S55C ≧780 229~285 0.69 ≧250 300℃ 1hr L-70 YM-70C YT-80
炭素鋼鍛造品 SF540A ≧540 ≧152 0.47 ≧150 L-55M YM-55C YT-60
SF590A ≧590 ≧167 0.52 ≧150 L-62 YM-60C YT-60
構造用
高張力炭素鋼
および
低合金鋼鋳鋼品
SCC5 ≧690 ≧201 0.58 ≧200 300℃ 1hr L-70 YM-70C YT-70
SCMn5 ≧740 ≧212 0.69 ≧250 300℃ 1hr L-80 YM-80C YT-70
SCMnCr4 ≧740 ≧223 0.77 ≧350 600℃ 1hr L-80 YM-80C YT-70
SCCrM3 ≧740 ≧217 0.74 ≧300 600℃ 1hr L-80 YM-80C YT-80A
SCMnCrM3 ≧830 ≧223 0.75 ≧350 600℃ 1hr L-80 YM-80C YT-70
SCNCrM2 ≧880 ≧269 0.83 ≧350 650℃ 1hr L-80 YM-80C YT-80A
機械構造用
合金鋼鋼材
SCM430 ≧830 ≧241 0.81 ≧350 650℃ 1hr L-80 YM-80C YT-80A
SCM435 ≧930 ≧269 0.85 ≧350 650℃ 1hr L-80 YM-80C YT-80A
※ 焼入れ焼戻しの場合。
 
図1 鋼の分類
図1 鋼の分類