NIPPON STEEL日鉄溶接工業株式会社

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技術情報溶接Q&A

F013橋脚耐震補強工事について

1. はじめに

平成7年1月17日未明、兵庫県南部および淡路島を襲った阪神・淡路大震災は記憶に新しいところで、わが国の震災対策上、歴史に残る日となりました。

最新の技術を駆使して建設されるビルディングや新幹線、高速道路、ライフラインは年々増加の一途をたどって、日本経済の繁栄に寄与していることから万全の安全対策が望まれます。このような構造物は、基礎・構造・材料・溶接・施工・管理に最新の技術を駆使して建設され、また安全確保のため日夜を問わず点検・保守に努力し安全対策も徹底されています。

しかし、今回の地震による被害は、戦後では1947年の福井地震を上回る最悪のものとなりました。震源の深さは20kmで、都市機能が密集した大都市を襲った直下型地震であり、建物の損壊、鉄道や高速道路の高架橋の倒壊、ライフラインの断絶など、社会経済を支える中枢施設に致命的な打撃を与えました。

2. 橋脚耐震補強溶接工事

「平成7年阪神・淡路大震災建築震災調査委員会」の中間報告は、建築震災状況の報告書であり、これに準ずる形で、建設省では道路公団(首都高速道路公団、日本道路公団、阪神高速道路公団、名古屋高速道路公団)、運輸省では新幹線(東海道、山陽、東北、山形、上越)、在来線(JR東日本、JR東海、JR西日本)をはじめ私鉄各路線、地下鉄各交通局などに耐震性向上のための橋脚補強工事を着手させています。平成7年度から9年度の3年間に発注される橋脚補強工事は、表1の通りです。道路関係で約2万8千基、鉄道関係で約5万1千基、合計で7万9千基となります。
 
表1
表1
 

3. 橋脚耐震補瞳工事の施工法

阪神・淡路大震災で阪神高速道路の橋脚が倒壊し大事故が発生しました。そこで鉄筋コンクリート(RC製)橋脚の耐震補強工事が急務となり一部の橋脚では工事に着手しています。この橋脚耐震補強工事の施工法には、
(1)鋼板巻き立て工法
(2)鉄筋コンクリート巻き立て工法
(3)新素材(カーボン繊維など)巻き立て工法
(4)鋼板ボルト締め工法
(5)その他
といった施工法があります。

すでに阪神高速神戸線、名古屋高速道路、首都高速道路湾岸線などで、半自動溶接法(CO₂溶接)による鋼板巻き立て工法が採用されています。この工法の特長は、要求強度の保証、工事コスト面で他の工法より有利であると考えられています。鋼板巻き立て工法とは、RC橋脚部に道路関係橋脚は板序9~16mm(SS-400)の鋼板を巻き立て、図1のように円柱橋脚の場合は4分割、角柱橋脚の場合は8分割の継手部の立向溶接をVEGA-VB法、横向溶接はUNI-OSCON法や半自動溶接法などで溶接するものです。鉄道関係橋脚は2分割で立向溶接をUNI-OSCON法などで行い、横向継手の溶接は省き、詰め物がされています。
 
図1
図1

そして、道路橋脚の場合、巻き立て鋼板と既存のRC橋脚の隙間3~5mmにエボキシ樹脂を充填します。山陽新幹線の鉄道橋脚では、30~50mmの隙間にモルタルを充填します。また、地下埋設橋脚部にコンクリート巻き立て工事を施すので大工事となります。(図2)。
 
図2
図2

 

4. 当社の鋼板巻き立て工法の溶接法について


平成7年11月1日付けで、機器、溶材、施工の関係者、約20名からなる橋脚補強工事プロジェクトチームを発足させ、機能的に活動できる体制にしました。鋼板巻き立て工法に使用する溶接法として、
①半自動CO₂溶接、
②自動CO₂溶接法(UNI-OSCON法)、
③エレクトロガスアーク溶接法(VEGA-VB法)
などがありますが、工事量の増加や慢性的な溶接士不足から自動溶接法が多く採用されると思われます。

VEGA-VB法、UNI-OSCON法は、昨年10月23日、JR西日本が姫路工区において実橋脚を用いて、溶接実験を実施し好成績を収めました。その溶接状況を写真1に示します。

写真1
写真1
 

5. 適用事例

VEGA-VB法は本州四国連絡椅公団第三伊方高架橋補強工事、首都高速道路公団などでは、板厚9mm、12mm、16mmの鋼板を6分割または8分割で巻き付け、表3に示すように裏当金4.5mmの場合は1層立向溶接、3.2mmの場合は2層立向溶接(1層目は下進溶接)で使用されています。
 
表3
表3

UNI-OSCON法は山陽新幹線高架橋補強工事で、板厚6mmおよび9mmの鋼板を2分割で巻き付け立向溶接に、日本道路公団や名古屋高速道路公団などの橋脚補強工事では板厚9mmおよび12mmの鋼板を8分割で巻き付け立向・横向溶接に使用されています。

VEGA-VB法・UNI-OSCON法ともその特長を遺憾なく発揮しています。各溶接法の概要は次の通りです。

●5-1 VEGA-VB法
VEGA-VB法は、Vibratory Electro Gas Arc welding Vertical buttの頭文字を取ったものです。本法は当初、貯蔵タンクの側板立向さ溶接用として開発されたもので板厚9~25mmまで1パス溶接が可能です。また、溶接速度は溶接電流の変化を察知して自動的に速度変換を行います(溶接状況を写真2、原理図を図3に示します)。ゆえに開先断面積の変化に対しても自動的に追随し安定した溶接が確保できます。今回は橋脚補強溶接用として、従来のVEGA-VB機から若干の仕様変更を行っており、橋脚補強用に開発した仕様を表2に示します。橋脚補強には、板厚9~12mm(一部16mm)に適用します。その溶接条件の一例と機械的性能・マクロを表3に示します。また、その特長をまとめたものを表4に示します。
 
写真2
写真2

図3
図3

表2
表2

表3
表3

表4
表4

●5-2 UNI-OSCON法
UNI-OSCON法は、UNIversal OScillation CONtrolled arc welding processから取ったものです。本機の特長はお手持ちの半自動溶接機と組合せて、簡単に全姿勢溶接ができることです。その仕様を表5に示します。また、溶接条件の一例と機械的性能・マクロを表6に、その特長をまとめたものを表7に示します。
 
表5
表5

表6
表6

表7
表7
 

6. おわりに

RC製橋脚補強工事には、VEGA-VB法・UNI-OSCON法が採用されており、それぞれ好評を得ています。現在、RC製橋脚の補強工事が優先的に行われていますが、今後は鋼製の橋脚補強も順次開始されることが予測され、それに伴い工事量の増加・慢性的な溶接士不足から、ますます自動溶接法が重要な役割を果たすものと考えられます。

また、第2東名の建設も計画され、VEGA-VB法やUNI-OSCON法の適用可能性を検討し、VEGA-VB法においてはウェブの立向溶接に可能であることを確認しました。

今後も社会に貢献する技術は、常に高い安全性や高品質化を要求されます。そうした技術を提供する企業としてその要求に応えるべく惜しみない努力を続けていきます。