NIPPON STEEL日鉄溶接工業株式会社

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技術情報溶接Q&A

F014低ヒューム、低スパッタのシームレスフラックス入りワイヤ
SF-1・EX SM-1F・EX

1. はじめに

フラックス入りワイヤは、優れた溶接作業性と高能率性により、その使用量がますます増加しています。
一方、汎用化にともなって、溶接施工現場からは、品質に対する厳しい要求や要望も多くなってきています。
最近の品質向上課題として、特に、作業環境改善面からの低ヒューム化、およびその除去工数低減を目的とした低スパッタ化があります。

当社のシームレスフラックス入りワイヤSF-1は、従来から、ヒューム、スパッタについても配慮した開発を行い、評価もいただいてまいりましたが、さらに低ヒューム・低スバッタ化を図りました。

今回は、2つの新製品、
軟鋼・490N/mm²級高張力鋼CO₂全姿勢溶接用 SF-1・EXと、
水平すみ肉溶接用 SM-1F・EXについて、以下にご紹介いたします。

2. 溶接時のヒューム、スパッタ

図1に、フラックス入りワイヤを使用したガスシールドアーク溶接の溶接状況を模式図で示しました。

図1
 
ワイヤ先端に生じた溶滴が、アーク直下の溶融プールに繰り返し移行することによって、溶接が進みます。これを高速度ビデオカメラで撮影すると、ヒュームは溶滴の表面や溶融プールの表面から舞い上がるように発生しているのが観察できます。ヒュームは高温度の溶滴や溶融プールから金属蒸気として舞い上がり生成したものであるために、個々の粒子は極めて微粒子で、それらが凝集して煙となったものです。

スパッタは主に溶滴が溶融プールに移行した際に発生していますが、そのほとんどは保護面(遮光ガラス)を通しては見えないくらいの細粒です。

しかし、例えば溶接条件を極端に不適正にした場合には、溶滴の移行性が不安定になり、大粒のスパッタが発生します。この瞬間、溶融プールが乱れてヒュームの舞い上がりも多くなります。

表1に、ルチール系フラックス入りワイヤを溶接して採取したヒュームの分析結果の一例を示しました。ヒューム成分は大部分が鉄酸化物で、次いでMnやSiなどの合金成分の酸化物が多く検出されます。Fe、Mn、Siは鋼板とワイヤの主成分です。

表1
表1
 
その他のヒューム成分は、ワイヤ中に含有するスラグ形成剤、脱酸剤、アーク安定剤などのフラックス原料に起因したものです。なお、プライマ塗装鋼板の溶接においては、プライマの燃焼ガスもヒューム成分となるので、ヒューム発生量は増加します。

図2に示すヒューム測定装置(JIS Z3930)を用いて行った、ヒューム発生量に及ぼす溶接条件および鋼板の影響についての調査結果を図3に示します。
 
図2
図2

図3
図3
 
ヒューム発生量は溶接電流にほぼ比例し、また黒皮材よりもプライマ塗布鋼板では、かなり増加していることがわかります。

ヒュームおよびスパッタ発生状況(対比)
ヒュームおよびスパッタ発生状況(対比)
 

3. ワイヤ設計

図4に、試作ワイヤによるヒュームとスパッタ発生量の関係を示しました。ヒュームとスパッタは連動しており、スパッタ発生量を少なくすることによって、ヒューム発生量を少なくすることができます。ワイヤ設計は、この観点からスパッタを少なくし、安定した溶接状況になるように、主にフラックス組成を検討しました。

図4
図4

この場合、フラックス入りワイヤがもっている本来の特長である、高能率性、溶接作業性、溶接金属の機械的性質や耐割れ性、耐プライマ性やビード形状などの各種溶接性能を後退させてはなりません。

全姿勢溶接用SF-1・EXと水平すみ肉溶接用SM-1F・EXは低ヒューム・低スパッタ化とともに、溶接性能についても、改良点をプラスしたシームレスフラックス入りワイヤです。

 

4. 全姿勢溶接用 SF-1・EX


●SF-1・EX
SF-1・EXは、各分野で広く使用されている全姿勢溶接用のSF-1の特長に加え、溶接時のヒュームとスパッタを大幅に少なくしたシームレスフラックス入りワイヤです。
職場のクリーン化とスパッタ除去工数低減に効果を発揮します。

sf1ex
 
特長
1.ヒューム発生量が従来の市販フラックス入りワイヤに比べ、約30%少なくなっています。(図5)
2.スパッタ発生量が従来の市販フラックス入りワイヤに比べ、約40%少なくなっています。(図6)

図5  図6
 
3.全姿勢でアークが安定し、溶接作業性が良好です。特に、立向上進溶接での高電流使用性を高めました。

SF-1・EX_ワイヤ諸元  SF-1・EX_適正電流範囲A


SF-1・EX_溶着金属化学性質の一例 SF-1・EX_溶着金属機械的性質の一例

5. 水平すみ肉溶接用 SM-1F・EX

●SM-1F・EX
図7に、SM-1F・EXのヒュームとスパッタ発生量の測定結果を示します。従来市販ワイヤに比較して大幅に低ヒューム、低スパッタとなっております。

SM-1F・EX

図7

水平すみ肉溶接用ワイヤとして、ビード形状、スラグ剥離性、耐プライマ性など、溶接作業性も良好です。

SM-1F・EX_溶着金属化学性質の一例 SM-1F・EX_溶着金属機械的性質の一例



SM-1F・EX_水平すみ肉溶接条件の一例

SM-1F・EXのビード外観 水平すみ肉ビードの断面マクロ

6. おわりに

以上、低ヒューム、低スパッタのシームレスフラックス入りワイヤ、SF-1・EXとSM-1F・EXをご紹介しました。
溶接作業環境改善は、先の'96国際ウェルディングショーに見られるように、あるいは溶接協会分科会の共同研究(いわゆる共研)テーマに作業現場の排気対策が取り上げられるなど、最重要課題となっています。

防塵マスクや作業現場の排気対策も進んでいますが、溶接材料面からの極限までの低ヒューム化、また各種自動溶接にさらに適合した低スパッタワイヤの開発こそ、今後のフラックス入りワイヤの発展に必須であると考えております。