NIPPON STEEL日鉄溶接工業株式会社

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技術情報溶接Q&A

F022YAGレーザについて

1. はじめに

レーザ加工法は、鋼材、非鉄材料、セラミックス、ガラス、プラスチック、皮革、布、木材などの多種多様な材料の溶接、切断、穴あけ、表面改質、マーキングなどの加工に用いられています。これらに見られるように、多品種少量生産・高付加価値化・自動加工への優れた適用性を持つことにより、自動車産業、電子部品・半導体産業、精密機械産業などの産業分野で広範囲に実用化が進展しています。加工に用いられるレーザ光としては、YAGレーザ、CO₂レーザ、エキシマレーザが主流となっています。

当社では、高出力YAGレーザメーカーである石川島播磨重工業株式会社(lHl)と代理店契約を結び、技術協力をして、YAGレーザの溶接適用に積極的に取り組んでおります。

2. YAGレーザ溶接の概要

YAGとは、イットリウム・アルミニウム・ガーネットの頭文字を取ったものです。YAG結晶にNdを数%含ませたものが実用化されており、Nd:YAG(ネオジウムヤグ)と呼ばれ、波長1.064μmで発振します。この結晶から発生するレーザ光を、一般にはYAGレーザといっております。

YAG結晶は硬くて機械的に強く、化学的に安定し、光学的性質にも優れています。さらに熱伝導率が大きいため、連続発振やパルス発振が容易に行え、国体レーザとしては、YAGレーザが主流になっています。

YAGレーザの特長は次のとおりです。
1.レーザ光をフレキシブルな光ファイバーで伝送できるので、ハンドリング(運用・取扱い)が非常に容易で、多関節ロボットなども使用できます。
2.光ファイバー伝送により、遠隔地(<100m)、狭隘箇所など、CO₂レーザでは不可能な用途にも適用できます。
3.ファイバー伝送したレーザ光を時間分割・空間分割し、複数の加工ステーションで用いることにより、利用効率を高めることができます。
 ・時間分割:複数の加工ステーションにレーザ光を時間的に切り替えて供給
 ・空間分割:複数の加工ステーションにレーザ光を分配し、同時供給
4.金属材料でのレーザ光吸収率がCO₂レーザの数倍高い。
5.発振波長がCO₂レーザの10分の1であるため、溶接時に発生するプラズマ吸収の影響を受けにくい。
6.集光光学系に安価なガラスが使用できる。
7.電流変調により、高ピークのパルス化が容易に可能。

以上から分かるように、YAGレーザは、多種多様な材料と加工に適用可能で、非常に多様性に富んだレーザ光です。

3. IHI製iLS-YCシリーズの特長について

lHl製YAGレーザ発振器(iLS-YCシリーズ)は近接結合方式を採用し、従来方式にない多くの特長を持っています。

1.大出力
多段化により大出力が得やすい構造を採用し、2.5kW、4.0kW、5.5kWレーザ発振器をシリーズ化しています。

2.コンパクト
レーザ発振器の全長を大幅に短縮し、設置床面積を小さくしています。

3.高い安定性
レーザヘッドの光軸調整や、ビームアパーチャのないシンプルな構造で、高い安定性が維持できます。

4.環境温度変化に強い
レーザ発振器の主要部に低温の冷却水が流れており、環境が変わっても光軸はズレません。

5.光ファイバー
大出力を高い効率でファイバー伝送できます。

本シリーズの装置仕様を以下の表に示します。

表1
装置仕様

4. YAGレーザ装置の販売・エンジニアリングに対する当社の取り組み方


先にも述べましたように、当社は、石川島播磨重工業株式会社(lHl)とタイアップし、実際に3kWYAGレーザ装置を設置しています。YAGレーザ導入検討中の皆様に対しまして、次のような側面から協力させていただこうと活動しております。

1.実ワークの溶接施工テスト
2.最適加工条件の確認
3.適合機種選定・システム設計・製造
4.受託加工

5. 主な適用箇所

YAGレーザの利点としては、第一に、高速溶接が可能であり、溶接ビードは狭く、熱影響部の小さい、低歪みの溶接部が得られること、第二に、ワイヤの供給により、溶接部品質の調整が可能であることが挙げられます。

iLS-YCシリーズの主な適用箇所は、自動車、鉄鋼、重工業などでの関連分野です。例えば、自動車ボディパネルのテーラードブランク溶接(板厚、強度、表面処理の異なった複数鋼板の溶接)、ミッションギア、トルクコンバーター、エンジンバルブの溶接、鉄鋼製品加工ラインでの薄板の板継ぎ、航空部品(Ti合金)、建材の溶接、配管フランジのクラッディングなどです。

6. 溶接条件例

本シリーズでの溶接条件例およびマクロ断面を表2、写真1、2、3、4に示します。

表2
表2

写真1 写真2

写真3 写真4

7. YAGレーザシステムの概要

以上にご説明しましたlHl製YAGレーザ発振器iLS-YCシリーズを用いたシステム構成例を、表3および図1に示します。

表3
表3

図1
図1

8. おわりに

その特長ゆえに、さまざまな分野で注目されているYAGレーザについて、石川島播磨重工業株式会社製『大出力連続波YAGレーザ発振器iLS-YCシリーズ』を中心にご紹介しました。

各社から販売されているYAGレーザ発振器の中でも、最も出力が高いクラスである5.5kW機がラインアップされておりますので、自動車業界をはじめ各業界での高能率な溶接に寄与できるものと確信しております。

iLS-YC-55Bの写真
iLS-YC-55Bの写真