技術情報溶接Q&A
F033建築鉄骨用大入熱対応『高HAZ靭性鋼用溶接材料』
はじめに
超高層建築構造物等で使用される四面ボックス柱の角継手溶接およびダイアフラム溶接では、サブマージアーク溶接(SAW)、エレクトロスラグコーナー溶接(SESNET)が多用されています。近年、兵庫県南部地震で見られた破壊事例等を教訓として、鋼構造物全般の安全性に対する関心が高まっており、大入熱溶接時に安定した靭性を得ることができる高HAZ靭性鋼が日本製鉄(株)によって開発されています。そこで当社は、溶接作業性および耐溶接割れ性が優れ、大入熱溶接における高HAZ靭性鋼のHAZと同等以上の溶接金属特性を得ることが可能な高HAZ靭性鋼用溶接材料を開発しました。
以下に高HAZ靭性鋼用溶接材料の特徴と溶接金属性能の一例をご紹介いたします。
特徴
(1)溶接金属の靭性が高い高HAZ靭性鋼と当社高HAZ靭性鋼用溶接材料の組合せでは、角継手サブマージアーク溶接やエレクトロスラグ溶接等の大入熱溶接でも、既存材料に比べ溶接金属の靭性が大幅に改善されます。これはMo(モリブデン)の添加等により、焼入れ性を適正化し、さらにB(ボロン)の微量添加によって粗大な粒界フェライトの生成を抑制し、微細な組織を形成することによって改善しています。
(2)従来鋼にも適用可能
当社高HAZ靭性鋼用溶接材料は、鉄骨加工で使用される引張強度490N/mm²、520N/mm²、590N/mm²の高HAZ靭性鋼に適用した場合に高い性能を発揮しますが、従来の同様の強度を有する鋼材に適用した場合でも、既存の当社溶接材料を上回る性能を発揮します。
(3)優れた溶接作業性
当社高HAZ靭性鋼用溶接材料は、優れた溶接金属性能を有することはもちろん、既存材料と変わらず、耐溶接割れ性、溶接作業性などにも優れていますので、良好なビード外観と健全な溶込み形状が得られます。

図1 四面ボックス柱の大入熱溶接組み立て概念図
高HAZ靭性鋼用溶接材料一覧
表1 高HAZ靭性鋼用溶接材料一覧


高HAZ靭性鋼用溶接材料該当JIS
表2 高HAZ靭性鋼用溶接材料該当JIS


図2 鋼材の強度区分と推奨溶接材料の例(概念図)
高HAZ靭性鋼用溶接材料を用いたサブマージアーク溶接金属性能例
表3 サブマージアーク溶接金属の機械的性質の一例

表4 サブマージアーク溶接金属の化学成分の一例


図3 2電極1パスサブマージアーク溶接による溶接継手の断面マクロ写真およびミクロ組織
高HAZ靭性鋼用溶接材料を用いたエレクトロスラグ溶接金属性能例
表5 エレクトロスラグ溶接金属の機械的性質の一例

表6 エレクトロスラグ溶接金属の化学成分の一例

表6

図4 エレクトロスラグ溶接による溶接継手の断面マクロ写真およびミクロ組織
おわりに
以上、高HAZ靭性鋼用溶接材料の特徴と溶接金属性能の一例をご紹介いたしました。
現在、すでに本溶接材料は実際のプロジェクトへの適用が開始されております。今後、鉄骨構造の極厚化と大断面化による大入熱溶接において、安定した溶接部の品質および作業能率向上による皆様のトータルコスト低減の一助になれば幸いと考えております。
現在、すでに本溶接材料は実際のプロジェクトへの適用が開始されております。今後、鉄骨構造の極厚化と大断面化による大入熱溶接において、安定した溶接部の品質および作業能率向上による皆様のトータルコスト低減の一助になれば幸いと考えております。