NIPPON STEEL日鉄溶接工業株式会社

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技術情報溶接Q&A

F037造船分野への自動化・システム化への取り組み

はじめに

言うまでもなく、造船分野での組立技術としての溶接は、建造工程の中でも重要な位置づけとなっています。特に海洋汚染防止の観点から、船体構造が二重船殻方式(以下、ダブルハル)へと変遷してからは、板継ぎ工程およびロンジ/トランスなどの骨配材の組立工程、いわゆる船殻の基本を製作するパネルラインでの溶接工数が大きなウェイトを占めるようになってきています。

また、最近では建造する船舶がコンテナ船などのように多様化する傾向にあり、従来のタンカーと比較して、板厚の大きな外板が用いられることから、ブロック同士の板継ぎ溶接での工数増加の要因となっています。このような背景から、以前にも増して各造船所では溶接工程の合理化およびコストダウンは生き残りを賭けた課題となっています。

当社では、昨年度の日鐵溶接工業と住金溶接工業の統合を契機に、日鐵ブランドが得意とする装置型溶接自動システムと住金ブランドが得意とする簡易型溶接ロボットの技術力を背景とした総合力を発揮して造船分野への自動化・システム化への新たなニーズに取り組んでいます。

本稿では、当社が長年培ってきた溶接に関するノウハウを武器に、造船向けを中心とした自動溶接システムを溶接材料と組み合わせて開発することにより、各造船所での溶接工程の合理化およびコストダウンのニーズにしっかりと応えている姿をご紹介いたします。

船体構造と建造方式の概要

一概に船舶と言っても、旅客船、コンテナ船、ばら積貨物船(以下、バルクキャリアー)およびタンカーなどのさまざまな商船があり、さらにタンカーの中でもその大きさによってDW30万トン以上をVLCC(VeryLarge Crude Oil Carrier)と称し、また積荷によってケミカル船やLNG船およびLPG船といったさまざまな船種・船型があり、その船体構造や適用鋼材は多様化しています。図1にバルクキャリアーの船殻構造の一例を示します。

通常、船体の建造方法はブロック建造方式が採用され、概して、ロンジまたはトランスから成る骨配材を板材に取り付けてパネルを製作し、これらパネルを組み合わせてブロックを工場内で組み立て、各ブロックを船台に搭載してブロック同士を繋ぎ合わせて船体を完成させる工程で進められています。
 
図1 バルクキャリアーの船殻構造の一例

船体構造と建造方式の概要

当社では、板継ぎの配材、仮付溶接、ロンジ材の配材および仮付溶接を含めた自動化の推進、配材の位置決めや溶接条件プリセット機能などを取り込んだ総合装置型の自動化・システム化を提供しています。

そこで、当社が造船所向けに多くの実績を誇る横流れ方式の大板ロンジ先付け工法に適用するパネルライン設備について、以下に説明します。

1.板継ぎ仮付溶接装置
本装置は、溶接線を挟んだ両板の下面に、マグネット式の位置決め調整装置と長手方向の位置決め調整装置を設置し、上部のガントリーに設けたCO₂溶接の仮付溶接ヘッドにより、板上面目合わせ仮付溶接をプリセット条件により自動化して行うものです。能力向上に対しては、溶接ヘッドの複数台搭載やシーリング溶接としての連続溶接機能の付加も可能になっています。

2.大板継ぎ溶接
以前から、造船の特殊事情によって板継ぎ工程では各種のバッキング方法を用いた片面サブマージアーク溶接が適用されてきましたが、ダブルハル化に伴う板継ぎ工程の高能率化に対応すべく、従来のサブマージアーク溶接法と比べ2倍以上の能率を確保できる4電極高速片面溶接法(NH-HISAW法)<写真1>を開発し実用化しています。

本溶接法の概要を図2に示しますが、独自の4電極方式により高速溶接を実現しており、板厚16mmにおいて溶接速度は1.5m/minと従来の2電極方式と比べて約2.5倍と飛躍的に高能率化を実現しています。

また、本装置は板厚毎に最適溶接条件と終端処理条件をプリセットが可能で、ワークの終端部も自動検出するので、溶接開始から終了まで全て自動化が可能となっています。
 
図2 4電極高速片面溶接法(NH-HISAW法)の概要

3.ロンジ配材組立および仮付溶接装置
本装置は、定位置に準備された1本または複数のロンジ材をロンジ配材保持・組立ステージへ自動搬送し、パネルによりロンジ材を垂直保持、位置調整後、圧着しながらCO₂溶接で仮付溶接を全自動で行います。

4.ロンジ材溶接
本法は、高溶着速度で優れたアークの安定性と直進性を持つシームレスフラックス入りワイヤを使用したCO₂溶接を用いて、2電極-1プール法を採用することで水平すみ肉溶接の高速化を達成した、ツインタンデム水平すみ肉ガスシールドアーク溶接法(HS-MAG法)<写真2>を開発・実用化しています。この方法の最大のメリットは、無機ジンクリッチプライマー塗布鋼板でもピット等の溶接欠陥を発生させることなく、溶接速度が1.3m/min(脚長5mm)という高速条件の溶接が可能となっています。

本装置は、3~10本のロンジを同時に溶接できる多電極搭載型で、2方向(ロンジ方向とトランス方向)の無監視溶接ができます。
写真2

 

曲がり外板への片面溶接ロボットシステム

船体の三次元曲がり外板の板継ぎには、以前から片面サブマージアーク溶接法が採用されていましたが、傾斜角度7度以上では溶接が困難となり、生産ラインの工程ネックとなっています。そこで、ユニークな装置型ロボットと新しい2電極揺動式下向片面CO₂溶接法(NS-ワンサイドマグ法)<図3>を組み合わせることにより、連続的に変化する10度までの縦 / 横傾斜溶接に対応できる溶接システムを開発しています。

本法は、ルートギャップをゼロとし、開先内部の仮付溶接部を溶かしながら、従来の溶接法の2倍以上の速度で安定した裏ビードを形成しながら片面溶接を行う高能率CO₂溶接法で、板厚22mmまでの片面1パス溶接が可能となっています。

また、ワイヤを走行台車に搭載しているので長尺溶接が可能で、溶接条件のプリセット、溶接線とワーク高さの自動検知装置搭載により、取り扱いおよび操作性にも優れています。溶接材料には、先行極はソリッドワイヤYM-55H(Φ1.6mm)、後行極はフラックス入りワイヤSF-1(Φ1.6mm)を使用し、開先内にはカットワイヤYK-CMを散布し、また裏当材にはセラミック製のSB-41Gをそれぞれ組み合わせて使用します。さらに、より使い易くした同装置の小型タイプも提供しています。

図3
 

厚板立向突合せ溶接装置

コンテナ船などの外板の厚板立向突合せ溶接において、板厚70mmを1パス溶接出来る2電極エレクトロガスアーク溶接法(2電極VEGA溶接法)が採用されています。その適用例を<写真3>に、板厚70mmの断面マクロの一例を<写真4>に示します。
 
写真3,4
 

簡易型溶接ロボット

当社では、さまざまなタイプの簡易型溶接システムも提供しており、<写真5>に示します全姿勢の自動溶接に対応できる小型アーク溶接ロボット「NAVI-21」を提供し好評を得ています。また、これをベースにしたポータブルレーザーセンシング溶接ロボット「Ez-Track」<写真6>が実際に三次元曲がりブロックの立向突合せ自動溶接に採用され、フラックス入りワイヤAS-1との組み合わせによるCO₂溶接で威力を発揮しています。これはロボットがレール上を走行する方式で、溶接線の教示または溶接長の入力だけで、その区間の溶接線をリアルタイムでセンシングし、複雑な溶接狙い位置を修正するのが大きな特徴です。

また、<写真7>に示します超軽量(8kg)の多目的溶接台車「SY-mini」もブロック同士の突合せ溶接(立向・横向)で活躍しており、人気を得ています。

このほか、<写真8>および<写真9>に示します自走式簡易台車として、すみ肉溶接用のキャリーボーイ・シリーズやスミオート・シリーズが多くの造船所で効果的に適用され、溶接合理化に大いに貢献しています。
 
写真5 写真7

 写真6

写真8 写真9

おわりに

今回、当社の造船向けを中心とした自動溶接システムとその溶接材料について紹介してきました。また、当社では<表1>に示しますように、造船での適用個所に応じて豊富な製品バリエーションを取り揃えています。これら自動溶接システムとその溶接材料を、さらなる溶接工程の合理化およびコストダウンならびに溶接品質の向上の一助としてお役立て頂ければ幸甚です。

表1 造船分野における最新の自動化システム
適用箇所 機器・装置 溶接材料
大板継ぎ(下向突合せ) 4電極片面溶接装置(NH-HISAW法) Y-A & NSH-50 & NSH-1R
ロンシ配材・仮溶接(水平すみ肉) 自動配材仮溶接装置(ツインシングル法) SF-1、AS-1、SM-1F、PL-22、YM-26他
曲がり外板(下向突合せ) 4電極多ヘッド溶接装置(NS-ワンサイドマグ法) SM-1F、PL-22
外板溶接(立向突合せ) エレクトロガス溶接機(2電極VEGA溶接機) YM-55H & EG-3T & SB-60VT
デッキ板継ぎ(下向突合せ) 板継ぎ溶接装置(NS-ワンサイドマグ法) YM-55H & SF-1 & YK-CM & SB-41GL
外板の板継ぎ(立向および横向突合せ) 小型溶接ロボット(NAVI21、SY-mini) SF-1、AS-1
曲がり外板(立向突合せ) 小型溶接ロボット(Ez-Track、NAVI21) SF-1、AS-1
スチフナ・面材すみ肉 簡易台車(キャリーボーイ、スミオートスーパー) SF-1、AS-1、SM-1F、PL-22