NIPPON STEEL日鉄溶接工業株式会社

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技術情報溶接Q&A

F038製紙用ダイジェスター(連続蒸解釜)内面肉盛溶接対応ステンレス鋼シームレスフラックス入りワイヤSF- 309MoLPおよび機器装置

はじめに

パルプ製造工程のメイン設備であるダイジェスター(連続蒸解釜)は、材木チップから製紙素材のクラフトパルプを作るための第一種圧力容器ですが、薬品およびチップによる腐食・摩耗減肉が課題となっており、寿命延長が望まれておりました。

このたび、臨海製紙工場として世界最大の大王製紙(株)三島工場殿のNKPおよびHNKPダイジェスターへ、ダイオーメンテナンス(株)殿、日鉄ハード(株)殿の施工により、日本で初めてダイジェスターの内面肉盛溶接を施工いたしました。

今回、本溶接施工で使用された、耐食性および耐摩耗性が良好な肉盛溶接用ステンレス鋼シームレスフラックス入りワイヤSF-309MoLPダイジェスター用特別仕様)および機器装置(専用機)の特長をご紹介いたします。
 
図1

品質目標

第一種圧力容器であるダイジェスターは、母材の肉厚設計値以上での運転が必要であり、高圧力・高温度・腐食環境などの厳しい条件下で使用されています。このため、内面肉盛溶接にあたっては、素材(母材)強度の低下および変形を防ぐため、溶込み深さ,肉盛厚さを最小レベルとすることが要求されます。

また、操業中のダイジェスターへの施工であることから、定修期間を短くするため、高能率な溶接施工が要求されます。さらに薄肉の肉盛溶接を行うため、ビード形状やスラグ剥離性等、良好な溶接作業性が求められます。
要求事項

SF-309MoLPの特長

SF-309MoLPの諸元を表1に、特長を表2に、溶着金属について、化学成分を表3に、機械的性質を表4に示します。高耐食、耐摩耗性から、溶着金属成分設計は高Moタイプとしています。また溶接作業性は、市販のSF-309MoLPをベースとし、ダイジェスター内面肉盛溶接に最適な特別仕様となっており、全姿勢溶接が可能で、アークの安定性、スラグの剥離性、ビード垂れ落ちのない良好な溶接作業性が得られます。さらに高能率な自動溶接が行えるよう、ワイヤタイプは、ターゲット性・送給性に優れるシームレスフラックス入りワイヤです。
表1 SF-309MoLPの諸元
銘柄 サイズmm タイプ 規格
SF-309MoLP 1.2Φ 全姿勢溶接用
シームレスフラックス入りワイヤ
JIS Z 3323
YF 309MoLC

表2 シームレスフラックス入り SF-309MoLPの特長
項目 内容
ターゲット性 ワイヤ狙い位置の振れが非常に小さく抑えられます
ワイヤ送給性 良好なワイヤ送給性が得られ、自動溶接に最適です
姿勢溶接性 全姿勢での溶接作業性が良好で、平滑で美麗なビードが得られます
耐吸湿性 内包フラックスが吸湿しないため、ビット・ブローホール・ガス溝等溶接欠陥が生じにくいです

表3 SF-309MoLP溶着金属の化学成分一覧(%)
銘柄 C Si Mn P S Ni Cr Mo
SF-309MoLP 0.03 0.61 1.27 0.022 0.006 12.2 23.0 2.73
JIS Z 3323
YF309MoLC
0~0.04 0~1.00 0.05~2.50 0~0.040 0~0.030 12.0~14.0 22.0~25.0 2.00~3.00

表4 SF-309MoLP溶着金属の機械的性質
銘柄 0.2%耐力
N/mm²
引張り強さ
N/mm²
伸び
SF-309MoLP 549 731 31
JIS Z 3323
YF 309MoLC
510以上 20以上

機器装置の特長4

ダイジェスター内面肉盛機器装置の主な特長を表5に、機器装置外観を図2に、溶接装置系統図を図3 に示します。ダイジェスターの溶接施工では、各2電極で複数台の機器装置および溶接機を用い、高能率な内面肉盛溶接を行います。

表5 ダイジェスター内面肉盛機器装置の特長
項目 内容
能率 ダイジェスター仕様の2電極であり、長尺溶接が可能であることから作業能率が大幅に向上し、工期短縮が図れます。
自動化 前後(エクステンション)方向の倣い装置を装備しているので溶接中の細かな調整が不要です。
走行終端検知機能を装備しているので溶接終了位置で自動停止します。
セッティング サドル付き走行レールにより、横行レール上を簡単に移動できるため、溶接位置の切替えが容易です。
ハンドリング 機器本体は、小型軽量で堅牢に作られておりますので、移動、取扱が容易です。
    
図2 機器装置外観
図2 機器装置外観

図3 溶接装置系統図
図3 溶接装置系統図

溶接施工例

溶接ビード外観を図4に、断面マクロを図5に、溶接施工例を図6に示します。溶接ビードは、溶込みが浅い薄肉で熱影響部も非常に小さく、平滑で美麗なビードが得られます。
 
図4 溶接ビード外観、図5 断面マクロ図

図6 溶接施工例
図6 溶接施工例

おわりに

以上のように、弊社ではダイジェスター内面肉盛溶接に最適な、高品質の肉盛金属が得られるステンレス鋼シームレスフラックス入りワイヤSF-309MoLPおよび高能率な専用機器装置を開発しました。日鉄ハード(株)殿の卓越した溶接技術と、弊社の開発したワイヤおよび専用機器装置とが、ダイジェスターの減肉防止を実現する高信頼性の施工技術の確立につながることとなり、これにより製紙業界の安定した操業に寄与できるものと確信しております。