技術情報溶接Q&A
F047アーク溶接法を主体とした分野別溶接施工法について
はじめに
当社で扱う溶接材料・機器は、現在の溶接で最も広く用いられているアーク溶接法に属し、国内外の幅広い産業分野にてご使用いただいております。主な分野としては、造船、鉄骨、橋梁、自動車、車両、産業機械、パイプライン、タンク、圧力容器等と、実に多岐にわたっております。溶接材料に関しては、造船及び鉄骨・橋梁向けの出荷量が最も多くなっています。また、溶接機器では、圧倒的に造船向けが多く、パネルライン等の大型設備からNS-キャリーオート等の簡易すみ肉溶接台車に至るまで幅広い製品ラインアップで対応しています。今回は、各分野での当社製品開発の取組み状況を通して、アーク溶接法を主体に各種溶接施工法についてご紹介いたします。溶接材料出荷量
各溶材出荷量の年度別推移を図1に示します。溶接材料別にみますと、最も多いのがガスシールドアーク溶接用のソリッドワイヤとフラックス入りワイヤであり、最近では特に造船分野での被覆アーク溶接棒の減少傾向を反映して、フラックス入りワイヤ比率の増加が目立っています。サブマージアーク溶接の比率は、昔も今もほとんど変わっていません。また、産業分野別の各溶接材料の出荷量一例を図2に示しますが、産業により溶接方法の違いがよく分かります。
図1 溶接材料の品種別国内出荷量(日本溶接棒工業会統計)

図2 産業分野別溶接材料出荷量
(日本溶接棒工業会、平成17年10月―12月統計)
分野別溶接施工法例
1.造船造船における溶接では、各種バッキング法との組合わせによる片面溶接法が採用され、いわゆるガウジングレス施工を取り入れているのが特徴です。溶接材料としては、フラックス入りワイヤが大半を占め、被覆アーク溶接棒、サブマージアーク溶接材料の順で使用されています。
(1)大板継ぎ
サブマージアーク溶接法の適用例としては、代表格として厚板パネルラインでの大板継ぎ溶接が挙げられます。当社では、本溶接法としてフラックス銅バッキング片面サブマージアーク溶接法(FCuB法)を開発しており、ロングセラー商品として厚板パネル溶接ラインが国内外の造船所で実績を重ねています。
また、当社では深い溶込みが得られるソリッドワイヤを先行極に、ビード外観が綺麗なフラックス入りワイヤを後行極に適用した2電極揺動式CO₂片面溶接法、いわゆるNSワンサイドマグ法で知られる板継ぎ溶接施工法も開発しています。本施工法は設備コストが比較的安価で、しかもブロック継ぎや曲がり外板の下向片面溶接が可能となるために、国内外の造船所で採用されています。また、本溶接法はギャップゼロ、開先内面仮付けが可能で、しかも裏当材には専用のセラミック製SB-41GLを貼るだけの簡単作業が特長で、板厚22mmまでなら1パス溶接での板継ぎが可能です。下向はもちろんのこと、連続的に変化する10°までの縦および横傾斜溶接にも適用できます。FCuB法とNS-ワンサイドマグ法の概要をそれぞれ図3及び図4に示します。

図3 FCuB法の概要

図4 NS-ワンサイドマグ法の概要
(2)立向溶接
ブロック同士の組立てには、全姿勢での作業性に優れたスラグ系フラックス入りワイヤによる半自動溶接施工が実施されています。しかしながら、積載量が8000TEUを超えるいわゆるメガコンテナ船の建造時には、特にシャーストレーキやハッチコーミングと呼ばれる剛性が必要な部位には、最大80mm程度の極厚板が適用されています。このような場合には、エレクトロガスアーク溶接による高能率溶接施工が適用されますが、現時点では、80mm程度の極厚板ではX形開先形状の採用により、片側をエレクトロガスアーク溶接、反対側をフラックス入りワイヤで行う施工法が一般的です。
当社では、板厚50~70mmを一気に1パスで溶接できる2電極VEGA法を開発しています。本溶接法の特長は、2電極とも開先内で揺動させますので板厚中央でも十分な溶込みを確保できます。2電極VEGA法の概要を図5に示します。

図5 2電極VEGA法の概要
(3)すみ肉溶接
造船の溶接では、すみ肉溶接継手の比率が高いことも特徴ですが、直線距離が長い場合には可能な限り多電極ラインウェルダー装置を用いた溶接自動化が図られています。この場合、耐ピット性に優れた水平すみ肉専用のメタル系フラックス入りワイヤが採用されています。当社は、ツインタンデム水平すみ肉溶接装置(HS-MAG法)を開発しており、本溶接法はロンジ材溶接で、高溶着速度で優れたアーク安定性と直進特性を持つ、シームレスフラックス入りワイヤを使用した炭酸ガスアーク溶接を用い、2電極-1プール法を採用することで水平すみ肉溶接の高速化を実現しています。最大の特長は、無機ジンクプライマー塗装鋼板でもピットなどの溶接欠陥を発生させることなく、脚長5mmであれば1.2m/分以上の高速溶接が可能です。
一方、短尺の溶接線に対しては、現在もEX-50F等の鉄粉系の非低水素系溶接棒を使用したグラビティ溶接による省力化が行われていますが、最近はフラックス入りワイヤと簡易すみ肉溶接台車による適用比率が増加しています。当社も、キャリーボーイやスミオートシリーズの各種製品を取り揃えていますが、新しく開発したNS・キャリーオートは小型軽量化を図り、出荷台数が急増しています。簡易すみ肉台車は、もともと作業者1人で複数台扱う場合から、門型架台の下に簡易台車を複数台セットして溶接を行う鵜飼方式などさまざまに工夫され利用されています。造船分野向け自動化機器と溶接材料の製品ラインナップを表1に示します。
表1 造船分野向け溶接機器と溶接材料
適 用 個 所 | 機 器 ・ 装 置 | 機 器 ・ 装 置 | |
大板継ぎ(下向突合せ) | 4電極片面溶接装置 (NH-HiSAW法) |
AH32/36、DH32/36 | Y-DL× NSH-50M× NSH-1RM |
EH32/40、DH40 | Y-DM3+ Y-DL× NSH-55EM× NSH-1RM | ||
低温用鋼 | Y-3NI× NSH-55L× NSH-1RM | ||
ロンジ配材・仮溶接(水平すみ肉) | 自動配材仮溶接装置(HS-MAG法) | SF-1、FC-1、SM-1F、FCM-1F、YM-26 | |
曲がり外板(下向突合せ) | 2電極揺動式下向片面CO₂溶接装置 (NS-ワンサイドマグ法) |
YM-55H×SF-1×YK-CM×SB-41GL | |
外板溶接(立向突合せ) | エレクトロガス溶接機 | 1電極VEGA溶接機 | EG-3×SB-60V |
2電極VEGA溶接機 | YM-55H×EG-3T×SB-60VT | ||
デッキ板継ぎ(下向突合せ) | 2電極揺動式下向片面CO₂溶接装置 (NS-ワンサイドマグ法) |
YM-55H×SF-1×YK-CM×SB-41GL | |
外板の板継ぎ(立向、横向突合せ) | 簡易溶接ロボット(NAVI-21、SY-mini) | SF-1、FC-1 | |
曲がり外板(立向突合せ) | 簡易溶接ロボット(Ez-track、NAVI-21) | SF-1、FC-1 | |
スチフナ・面材すみ肉 | 簡易すみ肉溶接台車 (NS-キャリーオート) |
一般すみ肉用 | SF-1、FC-1、SM-1F、FCM-1F |
大脚長用 | SM-1F(D)、FCM-1F(D) |
2.建築鉄骨
建築鉄骨における溶接では、主にスチールバッキングを使用した片面溶接法が採用され、この分野でもガウジングレス施工法が適用されています。溶接法としては、ソリッドワイヤによるガスシールドアーク溶接、サブマージアーク溶接と一部エレクトロスラグ溶接法が主として適用されています。四面ボックス柱の角溶接にはサブマージアーク溶接が適用され、ダイアフラムとスキンプレートの溶接には、当社が開発した簡易エレクトロスラグ溶接法(SESNET法)が適用されています。なお、エレクトロスラグ溶接法とは溶融スラグに電流を流して発生する抵抗熱を利用してワイヤ及び母材を溶融させる溶接法であり、アーク溶接法とは原理が異なります。四面ボックス柱における溶接施工例を図6に示します。
また、建築鉄骨の柱梁仕口や柱-ダイアフラムの溶接には、ガスシールドアーク溶接法が適用されており、能率面から比較的大きな入熱および高いパス間温度での多層盛溶接施工が行われています。シールドガスとしては、アルゴン系混合ガスよりも炭酸ガスの方が使用比率が高くなっています。さらに、1995年に発生した兵庫県南部地震を契機に、耐震性向上の観点から仕口部の溶接継手の品質や施工面のあり方が検討され、強度と靭性の確保を目的に、溶接ワイヤの強度レベルに応じて入熱とパス間温度の管理基準が定められ、またワイヤ面では既存のYGW11よりも大入熱及び高パス間温度で使用可能なYGW18がJIS規格に制定されました。
柱-ダイアフラムにおけるYM-55Cによるロボット溶接施工例を図7に示します。また、建築鉄骨分野向け溶接材料の代表的製品ラインナップを表2に示します。
建築鉄骨における溶接では、主にスチールバッキングを使用した片面溶接法が採用され、この分野でもガウジングレス施工法が適用されています。溶接法としては、ソリッドワイヤによるガスシールドアーク溶接、サブマージアーク溶接と一部エレクトロスラグ溶接法が主として適用されています。四面ボックス柱の角溶接にはサブマージアーク溶接が適用され、ダイアフラムとスキンプレートの溶接には、当社が開発した簡易エレクトロスラグ溶接法(SESNET法)が適用されています。なお、エレクトロスラグ溶接法とは溶融スラグに電流を流して発生する抵抗熱を利用してワイヤ及び母材を溶融させる溶接法であり、アーク溶接法とは原理が異なります。四面ボックス柱における溶接施工例を図6に示します。
また、建築鉄骨の柱梁仕口や柱-ダイアフラムの溶接には、ガスシールドアーク溶接法が適用されており、能率面から比較的大きな入熱および高いパス間温度での多層盛溶接施工が行われています。シールドガスとしては、アルゴン系混合ガスよりも炭酸ガスの方が使用比率が高くなっています。さらに、1995年に発生した兵庫県南部地震を契機に、耐震性向上の観点から仕口部の溶接継手の品質や施工面のあり方が検討され、強度と靭性の確保を目的に、溶接ワイヤの強度レベルに応じて入熱とパス間温度の管理基準が定められ、またワイヤ面では既存のYGW11よりも大入熱及び高パス間温度で使用可能なYGW18がJIS規格に制定されました。
柱-ダイアフラムにおけるYM-55Cによるロボット溶接施工例を図7に示します。また、建築鉄骨分野向け溶接材料の代表的製品ラインナップを表2に示します。

図6 ボックス柱およびSESNET溶接法の概略図

図7 YM-55Cによるロボット溶接部の断面マクロの一例
表2 建築鉄骨分野向け溶接材料の代表的製品ラインナップ
溶接材料 | 区分 | 適用鋼材 | |||||
490N/mm²級 | 570N/mm²級 | 490N/mm²級(耐火鋼) | |||||
銘柄 | 該当JIS規格 | 銘柄 | 該当JIS規格 | 銘柄 | 該当JIS規格 | ||
溶接棒 | 一般 | L-55 | D5016 | L-60L-62 | D5816 | L-50FR | D5016 |
ソリッドワイヤ | CO₂用 | YM-26 | YGW11 | YM-60CYM-60CS | YGW21 | YM-50FR | YGW14 |
YM-55C | YGW18 | ||||||
Ar-CO₂用 | YM-28S | YGW15 | YM-60A YM-60AS |
YGW23 | YM-50FRA | YGW17 | |
YM-55AG YM-55AGS |
YGW19 | ||||||
サブマージアーク 溶接材料 |
BHすみ肉 (一般) |
YF-800 ×Y-D |
FS-FP1 | NF-820 ×Y-DM |
FS-FP1 | NF-820FR ×Y-D・FR |
FS-FP1 |
YS-S6 | YS-M5 | ||||||
YF-800 ×Y-DS |
FS-FP1 | YF-800 ×Y-CMS |
FS-FP1 | YS-M1 | |||
YS-S6 | YS-M4 | ||||||
BHすみ肉 (深溶込み/2電極) |
NF-900S ×Y-DL+Y-D |
FS-BN1 | NF-900S ×Y-CM |
FS-BN1 | ― | ― | |
YS-S6 | YS-M5 | ― | |||||
Cコラム、Gコラム等の 突合せ |
NF-320 ×Y-D |
FS-FG3 | NF-320 ×Y-DM |
FS-FG3 | YF-15FR ×Y-D・FR |
FS-FG3 | |
YS-S6 | YS-M5 | YS-M1 | |||||
ボックス柱 角継手 |
NSH-53Z ×Y-DL |
FS-BT1 YS-S6 |
NSH-60S ×Y-DM3L |
FS-BT1 | NB-52FRS ×Y-DL・FR |
FS-BT1 YS-S6 |
|
YS-M1 | |||||||
NSH-53Z ×Y-CMS |
FS-BT1 | ||||||
YS-M4 | |||||||
エレクトロスラグ 溶接材料 |
SESNET | YF-15I ×YM-55S |
FS-FG3 | YF-15I ×YM-60E |
FS-FG3 | YF-15I ×YM-50FRS |
― |
YES 51 | YES 62 | ― |
自動車分野では、車体に用いられる鋼板が板厚1mm以下の超薄板であることから、スポット溶接と呼ばれる抵抗溶接が主流ですが、足回り部品などの板厚2~3mmに対してはソリッドワイヤによるガスシールドアーク溶接法が適用されています。シールドガスとしては、アルゴン系混合ガスを用いたマグ溶接が主流で、さらにパルス電源との組合せによって極限まで低スパッタ化を図ったパルスマグ溶接法が適用されています。継手形状としては重ね継手が採用され、鋼板は主に合金化溶融亜鉛めっき処理をされたものが用いられます。溶接ワイヤには、それぞれ耐溶落ち性及び疲労強度に優れた溶接品質が要求されています。自動車分野向け溶接材料の製品ラインナップを表3に示します。
表3 自動車分野向け溶接材料のラインナップ
ワイヤ銘柄 | JIS規格 JIS Z 3312 |
シールドガス | 特 長 |
YM-28 | YGW12 | CO₂、Ar-CO₂用 | 汎用小電流溶接用 |
YM-30 | YGW17 | Ar-CO₂用 | 耐ギャップ性(架橋性)、低スパッタ |
YM-24T | YGW16 | Ar-CO₂用 | 薄板高速溶接用、耐ギャップ性(架橋性) |
YM-24S | YGW17 | Ar-CO₂用 | 薄板高速溶接用、低スパッタ |
YM-22Z | YGW17 | Ar-CO₂用 | 合金化溶融亜鉛めっき鋼板用(亜鉛目付け量45~60gr/m²程度) |
YM-28Z | YGW14 | CO₂用 | 溶融亜鉛めっき鋼板用(亜鉛目付け量270gr/m²程度) |
YM-28(エコ) | YGW12 | CO₂用 | めっきなしの汎用小電流溶接用 |
圧力容器と言っても各種の容器がありますが、いずれも重要溶接構造物であり、通常、ASME規格等の厳格な品質マニュアルによって製作されます。とりわけ、石油精製プラント等で用いられる高温・高圧の水素ガスを取り扱う圧力容器では、100mmを超える極厚肉の構造となっており、さらに自硬性が大きなクロムモリブデン鋼が使用されますので、そのため水素による遅れ割れ感受性が高くなります。このような溶接施工においては、十分な予熱が行われ、かつ低水素系の溶接材料が適用されています。また、溶接部の延性・靭性の確保と溶接による残留応力除去の目的で、特例を除き溶接後熱処理(PWHT)が行われます。溶接施工法としては、両面多層溶接が基本ですが、初層溶接の未溶融部分は裏側から完全にガウンジングを行なってから、慎重に溶接が行われます。縦シーム及び周溶接にはサブマージアーク溶接が、ノズル取付け等には被覆アーク溶接法やソリッドワイヤを用いたマグ溶接法が適用されています。溶接材料としては、PWHTや高温運転中に溶接金属が脆化しないような溶接材料が適しています。低合金耐熱鋼用溶接材料の製品ラインナップを表4に示します。
表4 低合金耐熱鋼用溶接材料の選定ガイド
鋼種 | ASTM規格 | 溶接材料 | ||||
板 | パイプ/チューブ | サブマージアーク | ソリッドワイヤ | ティグ棒 | 溶接棒 | |
C-0.5Mo | A204 Gr.A、B、C | A209 Gr.T1 A335 Gr.P1 |
NF-1× Y-DM | YM-505 YM-60A |
YT-505 | N-0S |
1.25Cr-0.5Mo | A387 Gr.11 Cl.1、2 | A213 Gr.T12 A335 Gr.P12 |
NF-250×Y-511 NB-1CM×Y-511 |
YM-511 YM-511A SM-CM1 |
YT-511 YT-511S |
N-1S N-1SA |
2.25Cr-1Mo | A387 Gr.22 Cl.1、2 A542 Tp.B Cl.4 |
A213 Gr.T22 A335 Gr.P22 |
NB-250M×Y-521H NB-2CM×Y-521 |
YM-521 YM-521A SM-Cm² |
YT-521 YT-521S |
N-2S N-2SA |
2.25Cr-1Mo-V | A832 Gr.22V A542 Tp.D Cl.4a |
― | NB-2CMV×Y-521V | ― | YT-521V | N-2SV |
3Cr-1Mo-V | A832 Gr.21V A542 Tp.C Cl.4a |
― | NB-3CMV×Y-531V | ― | ― | N-3SV |
9Cr-1Mo-V | A387 Gr.91 | A213 Gr.T91 A335 Gr.P91 |
NB-9CM×Y-591S | ― | YT-9ST | N-9S |
Mn-Mo-Ni | A533 Tp.B A302 Tp.B |
― | NF-250×Y-204 | YM-1N | YT-1N | N-P31 N-3、 N-P32 |
3Ni-1.8Cr- 0.5Mo |
A543 Tp.B A508 Gr.4N |
― | NB-80×Y-80 | YM-80A YM-80S |
YT-80 | L-74S |
・YM-511A、YM-521A、SM-CM1、SM-cm² etc.:Ar-CO₂混合ガス用