NIPPON STEEL日鉄溶接工業株式会社

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技術情報溶接Q&A

F050LNGタンク用 9%Ni鋼溶接材料

1. はじめに

1979年に発生した第2次オイルショック後、石油に代わる代替エネルギーの導入促進が行われ、LNG(液化天然ガス:Liquefied Natural Gas)などの新エネルギーの導入が急速に進みました。国内の発電電力量の推移を図1に示します。1)1973年に71.4%あった石油火力の割合は、2004年度ではわずか8.2%まで低下し、その代わりに、原子力やLNGの割合が大幅に増加し、エネルギー源の多様化が進んだことが分かります。その中でLNGは、有毒ガスなどを発生しないクリーンエネルギーで、世界の埋蔵量が約178兆m3と多いことから、世界で需要が増加しつつあります。世界のLNG取引の推移を図2に示します。2)日本は、世界最大のLNG輸入国ですが、今後はアメリカ、韓国、中国、インドなどの需要が急速に伸びると予想されています。

図1 日本の発電電力量の推移
図1 日本の発電電力量の推移

図2 世界のLNG取引推移
図2 世界のLNG取引推移

2. 9%Ni鋼

天然ガスの主成分はメタンであり、大気圧下において-162℃で液化され、その際体積が1/600に減少します。そのため、気体より液体で輸送・貯槽する方が便利ですが、その一方、極低温で保持されるため、容器には低温靭性の優れた鋼材が必要となります。各種液化ガスの沸点と対応する低温用鋼を図3に示します。3)

9%Ni鋼は、鉄にNiを9%含ませるだけでなく、焼入れ・焼戻しの熱処理を行うことにより、優れた強度・靭性が得られる鋼です。LNGタンクに最適な鋼として、多くの使用実績があります。

一方、溶接材料は母材と同成分(共金系)では、溶接のままで母材並みの靭性を得ることは困難です。また、直径が数10mある大型タンクに、母材と同様の熱処理を行うことも困難です。そこで、溶接のままでも極低温靭性が得られるよう、最適な設計を行ったものが、今回紹介するNi系の9%Ni鋼用溶接材料です。

図3 各種液化ガスの沸点と対応する低温用鋼
図3 各種液化ガスの沸点と対応する低温用鋼

3. 9%Ni鋼用溶接材料

当社の溶接材料は、日本における9%Ni鋼LNGタンク建造当初から開発に着手し、各種溶接方法のNi系溶接材料を市販してきました。当社の9%Ni鋼用溶接材料開発経緯を図5に示します。9%Ni鋼の溶接材料に要求される性能には、以下の項目が挙げられ、要求を満足する品質の確立に努めてきました。

 1.耐欠陥性(耐割れ性・耐ブローホール性)が良好であること。
 2.高強度・高靱性の優れた機械性能が得られること。
 3.溶接作業性が良好であること。

●3.1 被覆アーク溶接棒
約40年前、アメリカにおける9%Ni鋼の溶接と言えば、INCO社の開発したインコネル4)系溶接棒INCO WELD A(70Ni-15Cr-Nb-Mo)が一般的でした。しかし、引張強さが低い、高温割れを生じやすい、ビード形状が悪いなどの課題があり、当社のYAWATA WELD B(M)開発に着手しました。溶着金属成分として、C、Mo、Nbの適正化や不純物元素の低減などの検討を行い、耐割れ性に優れ、所要の引張強さが得られるよう、設計を見直しました。

溶接作業性は、被覆剤を大幅に見直し、ファブリケーター殿の要望に合う改良を行い、アーク安定性に優れ、良好なビード形状が得られるなど、溶接作業性が良好な現在のYAWATA WELD B(M)を提供しております。

一方、SAWの仮付けや下盛・補修溶接用として開発を行った、ハステロイ4)系溶接棒NITTETSU WELD 196もラインナップしていますが、YAWATA WELD B(M)よりも高性能(強度・靭性)が得られることから、近年の高い要求値に対応できる溶接棒として、適用が進んでいます。

●3.2 サブマージアーク溶接材料
開発当初は、被覆アーク溶接棒と同様のインコネル系にて検討を行ってきましたが、SAWは他溶接法に比べ、溶込みが大きく、希釈率が高くなることから、高温割れが生じやすい課題がありました。そこで、溶着金属成分の大幅な見直しを行い、耐割れ性に優れるハステロイ系ワイヤNITTETSU FILLER 196を開発しました。

ワイヤの開発に合わせ、下向だけでなく横向姿勢の溶接作業性に優れ、不純物元素の低い高品位な専用フラックスNITTETSU FLUX 10Hを開発し、9%Ni鋼LNGタンクの溶接自動化に貢献しています。

●3.3 ガスタングステンアーク溶接ワイヤ
SAWと同系のハステロイ系ワイヤをGTAW用に成分変更し、スラグ発生が非常に少なく、ビード形状が良好など、溶接作業性に優れ、強度・靭性(9%Ni鋼の他溶接法に比べ最も高い性能)に優れるワイヤNITTETSU FILLER 196を開発しています。

図4 地上式LNGタンク外観 図4 地上式LNGタンク外観
図4 地上式LNGタンク外観

図5 当社の9%Ni鋼LNGタンク用溶接材料の開発経緯
図5 当社の9%Ni鋼LNGタンク用溶接材料の開発経緯

9%Ni鋼用溶接材料を表1に、溶着金属性能例を表2に、ビード外観例を図6に示します。

表1 9%Ni鋼用溶接材料
溶接方法 銘柄 JIS AWS
SMAW YAWATA WELD B(M) Z 3225 D9Ni-1 A5.11 ENiCrFe-4
NITTETSU WELD 196 Z 3225 D9Ni-2 A5.11 ENiMo-9
SAW NITTETSU FLUX 10H
×
NITTETSU FILLER 196
Z 3333 FS9Ni-H
×
YS9Ni
A5.14 ERNiMo-9Mod.
×
GTAW NITTETSU FILLER 196 Z 3332 YGT9Ni-2 A5.14 ERNiMo-9

表2 溶着金属性能一例
鋼種 化学成分(%) 機械的性質
C Si Mn Ni Cr Mo W Nb Fe 0.2%耐力
MPa
引張強さ
MPa
伸び
%
vE-196℃
J
YAWATA WELD B(M) 0.09 0.20 3.22 65.1 15.8 3.35 - 1.60 10.20 443 709 39 68
NITTETSU WELD 196 0.04 0.40 0.45 72.5 - 19.0 2.91 - 3.50 449 743 46 101
NITTETSU FLUX 10H
×
NITTETSU FILLER
0.04 0.44 0.86 73.1 - 19.4 2.84 - 2.48 415 708 43 60
NITTETSU FILLER 196 0.02 0.03 0.03 74.0 - 19.4 2.75 - 1.21 468 746 44 173
YAWATA WELD B(M)による立向上進(SMAW) YAWATA WELD B(M)による立向上進(SMAW)
YAWATA WELD B(M)による立向上進(SMAW) NITTETSU FILLER 196 による立向上進(GTAW)
NITTETSU FLUX 10H × NITTETSU FILLER 196 による NITTETSU FLUX 10H × NITTETSU FILLER 196 による
NITTETSU FLUX 10H × NITTETSU FILLER 196 による
左・水平すみ肉(SAW) 右・横 向(SAW)
図6 溶接ビード外観一例
  

4. おわりに

当社の9%Ni鋼用溶接材料は、多くの実績を重ね、耐欠陥性、機械性能確保など、困難な課題をクリアし、現在の信頼を得るに至っております。今回紹介いたしました溶接材料は完成されたものであり、今後のLNGタンク建造にも十分供し得る材料と確信しておりますが、これに満足することなく、現在もファブリケーター殿の要望に応えるよう、さらなる高性能化や、高能率化の検討を進めております。