NIPPON STEEL日鉄溶接工業株式会社

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技術情報溶接Q&A

F071光ファイバセンシングソリューション

当社オプト事業部が製造・販売している金属管入り光ファイバ『ピコループ』についてご紹介します。『光ファイバ』について、また『溶接材料メーカーである弊社がなぜ光ファイバ事業に関わることになったのか?』、さらに『どんなところで使われているか?』などについてご紹介します。

1. 光ファイバとは?

光ファイバは石英ガラスで形成され、光の屈折率が大きい中心部のコアとその周囲を覆うクラッドという二層構造でできています。コア内を全反射という現象により光が伝送していく光ファイバは、電線での通信に比べると大容量(約1,000倍)のデータを超高速で長距離まで送ることができ、また電磁ノイズの影響を受けないという特長があります。このような通信での光ファイバの利用についてはすでにインターネットなどで普及されており皆様ご存知かと思います。

また、一般的にはあまり知られていませんが、光ファイバはファイバ内の後方散乱光という微弱な光を利用して、温度や歪を測定するセンサとして、構造物のモニタリングや防災などさまざまなところで使われています。

一方で、光ファイバはガラスでできているため、衝撃や曲げなどの圧力を受けると簡単に折れる、熱に弱いなど、電線のようにどこにでも這わせておけるものではなく、光ファイバケーブルを布設する時には光ファイバを折らないよう保護する管の中にケーブルを通して耐環境性能の確保が必要となるなど慎重な作業が必要となります。

2. 『ピコループ』とは?

『電線並みにハンドリングできる光ファイバケーブル』という製品開発コンセプトのもと、機械的強度や耐熱性が劣るという光ファイバの弱点を一挙に解決した画期的な光ファイバケーブル、それが『ピコループ』です。ユニシームレス(合わせ目のない)金属管の中に光ファイバを入れることで、車で踏んでも、1,000℃で30分焼いても通信に問題ない(ピコケーブル)というほどの機械的性能、耐熱性を実現しました。  

3. 『ピコループ』誕生秘話

約30年前の1984年頃、旧日鐵溶接工業では新たな柱となる新規事業の検討を始めていました。その頃、東京都では、下水道管を利用して光ファイバ通信網を普及させるという計画が持ち上がり、耐水性や耐久性、特にネズミなどによる咬害にも耐えられる強固な光ケーブルが必要とされました。そんな中、開発に迫られた光ケーブルメーカーは旧新日本製鐵に共同研究を申し入れ、その結果、弊社で金属管入り光ファイバの開発が始まりました。髪の毛程の細い光ファイバを直径約2ミリの超極細金属管の中に入れるという前例のない実験は試行錯誤の連続でした。『ピコループ』のはじまりは下水道管内を通す光ケーブルの工業中間製品として採用されたことから始まりました。

金属管に光ファイバを入れる技術は、当時のシームレスフラックス入りワイヤの製造工程である金属管にフラックスを充填する技術(大きなボビンにシームレス金属管を巻きつけ、上下振動と円運動に振動を与えフラックスを充填)を応用したものです。つまり、フラックスという粉の代わりに光ファイバを入れたということです。細径金属管にあとから光ファイバを入れるというこの技術は他社にまねのできない、世界でも唯一の高い技術です。

 

4. 『ピコループ』の歴史


1990年に『電線並みに扱えるタフな光ケーブル』というキャッチコピーで、金属管入り光ファイバのブランド『ピコループ』の発売を開始しました。光ファイバが急速に普及したことと、『ピコループ』の強みである、金属管に入っているため過酷な環境に耐えることができることや、布設しやすくコストダウンに繋がるということから、販売量は急速に伸びていきました。具体的には、『ピコケーブル』は電力会社や工場内でのFALAN用として、『ピコフレキ』は国内電気メーカーへ強化型光ケーブルとしてスペックインされるとともに、鉄道の制御系などに採用されました。『ピコドラム』は放送局やイベント会社などに採用されるなど、安定した収益を確保できるようになりました。さらに、『ピコセンサ』が製鉄所の高炉や化学プラントなどの温度監視、橋梁の歪測定や数千m深度の地中・海中の熱・歪などの監視用などさまざまな分野に適用されるようになりました。

5. 『ピコループ』の製品群

『ピコループ』とは、金属管入り光ファイバの総称であり、製品としては、『ピコケーブル』、『ピコフレキ』、『ピコセンサ』などがあります。使用用途としては、通信用として使用されるものと、センシング用として使用されるものの2種類に分けられます。
●通信用
 



●センシング用
一般的に光ファイバケーブルは通信用として利用されますが、光ファイバ内の後方散乱光や反射光の温度や歪みの依存性を利用して光ファイバ自体をセンサとして、温度や歪みなどを測定するのが光ファイバセンシングです。測定方法としては、それぞれ、点で測定する多点型と全線をセンサとして測定する分布型があります。

従来の熱電対などの電気式センサでは点での測定しかできず、広い箇所の測定には通信線だけでも莫大な距離となり、それぞれに電源が必要となります。それに対し、光ファイバ自体がセンサとなる光ファイバセンサは線による測定が可能となり、1つの測定器の電源だけで数十kmの測定ができるため大幅なコスト削減が見込めます。
電気式センサとの比較
電気式センサとの比較

光ファイバセンサのしくみ
光ファイバセンサのしくみ

さらに、電磁ノイズを受けない、防爆に関する対策が不要、遠隔監視ができるなど多くのメリットがあります。

しかし、光ファイバ自体がガラスであるため、機械的特性および環境特性の面で弱点を持っており、施工性やメンテナンス性からは問題を抱えています。そこで、金属管入り光ファイバを使うことによりそれらの弱点を克服することができます。

実績としては、トンネルをはじめ、電力発電用ボイラ温度監視、地熱発電、地滑り検知、地盤変状、配管温度監視などに利用されています。

地震、土砂崩れ、火災、最近ではトンネルの天井の崩落など、災害のニュースを耳にしない日はありません。特に、建設後30~40年経過して老朽化しているトンネルや橋などの維持管理については大きな課題となっています。それらの問題に対し、光ファイバセンシングで初期の変状・温度の変化を捉えることができれば大災害を未然に防ぐ可能性が高まります。

 

6. これからの『ピコループ』

これまでご紹介させていただいた通り、『ピコループ』は他社にはない独自の強みを持った製品です。これからは、その強みを国内に留まらず、海外へも展示会などを通じ発信していくとともに、センシングに関しては測定器などを含めたトータルシステムの販売を通じてお客様のお役に立てる取り組みを行っていきます。

この溶接フォーラムを通じて、溶接材料でお世話になっている皆様に『ピコループ』についてお伝えすることができました。これから皆様の会社やお客様の通信用光ケーブル、あるいは温度・歪みのモニタリングや防災用としてお役に立てることができれば幸いです。なお、2012年10月より『ピコループ』専用ホームページ(www.n-picoloop.com/)を開設しています。ご興味のある方は一度ご覧ください。

ピコループ