技術情報溶接Q&A
F072造船の溶接材料について
1. はじめに
当社は、昨年12月に国内外の販売活動の迅速化を図るため営業部門において需要分野別/事業部制を導入し、造船事業部、自動車・建産機事業部、建築・鋼管事業部、海外・プラント事業部、ステンレス事業室の4事業部1事業室となりました。今回、造船事業部に関する溶接材料について紹介します。2. 船の種類
日本は四方を海に囲まれており、船舶の運用は日本の産業に大きく寄与しています。ここでは、主な商船を紹介します。1.コンテナ船(Container ship)
コンテナを専用に運ぶ船のことで、コンテナの出し入れを容易にするための工夫がされています。また、上甲板にもコンテナを積むことができます。コンテナ船の積載能力は、TEU(Twenty-foot Equivalent Units)という単位で表現されています(例:8,000TEU)。1TEUは、ISO(国際標準化機構)によって規格化され海運業界の標準となっている20フィート(6m)コンテナの1個分に相当し、何個搭載できるかで表されます。
2.ばら積み貨物船(Bulk carrier)
ばら積み貨物船は、鉄鉱石、石炭、小麦、飼料など袋詰めではなく、バラの状態で船に積めるように設計されています。このような貨物を専門に運ぶ船を指します。
3.タンカー(Tanker)
タンカーとは、液状の各種貨物をばら積みし輸送する商船の総称で、船体は、縦・横に仕切られていて、区画の一つひとつが貨物倉庫となっています。積み込む貨物によって船型・船体構造および設備に違いがあり、VLCC(Very Large Crude oil Carrier)などの原油タンカーをはじめ、プロダクトタンカー、ケミカルタンカーなどがあります。
ばら積み貨物船やタンカ-の大きさを示す単位は、載荷重量数(トン、DW、DWT(Dead Weight Tonnage))で表されます。
3. 船級の種類
船舶を所有するにあたり、その船舶に格付けする団体を船級協会(Classifi cation Society)といいます。任意ではありますが、船級のない船は信用が低く、売買価格にも影響し、保険料率が大きくなり不便が多いことから、船級を有することが慣例となっています。協会名 | 略号 | 国名 |
日本海事協会 | NK | 日本 |
American Bureau of Shipping | ABS | アメリカ |
Lloyd’s Register of Shipping | LR | イギリス |
Det Norske Veritas | DNV | ノルウェー |
Bureau Veritas | BV | フランス |
Germanischer Lloyd | GL | ドイツ |
Korean Register of Shippng | KR | 韓国 |
China corporation Register of Shipping | CR | 台湾 |
China Classifi cation Society | CCS | 中国 |
4. 船舶の材料
船級を取得した船舶を所有するためには、材料も船級に認められた材料を使用する必要があります。表2にNK船級の圧延鋼材の記号および規定値を示します。表3および表4に鋼材に対応する溶接材料の種類および当社溶接材料を示します。表3および表4に示す通り上位グレードで船級を取得することにより下位グレードの鋼材への適用も可能となります(船級協会によって適用鋼材のルールは違いますので、詳細は各船級協会にお問い合わせください)。表2 鋼材の材料記号と機械的性質規格(NK規格 鋼船規則 K編抜粋)
種 類 | 鋼材記号 | 引張試験 | 衝撃試験 | ||
降伏点または耐力 (MPa) |
引張強さ (MPa) |
試験温度 (℃) | 吸収エネルギー (J) | ||
軟 鋼 | KA | 235以上 | 400~520 | - | - |
KB | 0 | 27以上 | |||
KD | -20 | ||||
KE | -40 | ||||
高張力鋼(YP32) | KA32 | 315以上 | 440~590 | 0 | 31以上 |
KD32 | -20 | ||||
KE32 | -40 | ||||
KF32 | -60 | ||||
高張力鋼(YP36) | KA36 | 355以上 | 490~620 | 0 | 34以上 |
KD36 | -20 | ||||
KE36 | -40 | ||||
KF36 | -60 | ||||
高張力鋼(YP40) | KA40 | 390以上 | 510~650 | 0 | 39以上 |
KD40 | -20 | ||||
KE40 | -40 | ||||
KF40 | -60 |
表3 鋼材に対応する当社溶接材料一例(ガスシールドアーク溶接)
鋼材記号※1 | 溶接材料の
種類
|
引張試験 | 衝撃試験 | 当社該当銘柄 | ||
降伏点 または耐力 (MPa) |
引張強さ (MPa) |
試験温度 (℃) |
吸収 エネルギー (J) |
|||
KA36(32) | KSW51 | 375以上 | 490~660 | 20 | 47 | - |
+KD36(32) | KSW52 | 0 | FC-1、FCM-1F、SF-1、SM-1F | |||
+KE36(32) | KSW53 | -20 | YM-26、YM-28、SF-3 | |||
+KF36(32) | KSW54 | -40 | - | |||
KA40・KD40 | KSW52Y40 | 400以上 | 510~690 | 0 | 47 | SF-1、SM-1F |
+KE40 | KSW53Y40 | -20 | YM-55A、YM-55H、SF-3Y、SF-3A | |||
+KF40 | KSW54Y40 | -40 | - |
表4 鋼材に対応する当社溶接材料一例(サブマージアーク溶接)
鋼材記号※1 | 溶接材料の 種類 |
引張試験 | 衝撃試験 | 当社該当銘柄 ( ):電極数 |
||
降伏点 または耐力 (MPa) |
引張強さ (MPa) |
試験温度 (℃) |
吸収 エネルギー (J) |
|||
KA36(32) | KAW51 | 375以上 | 490~660 | 20 | 34 | - |
+KD36(32) | KAW52 | 0 | Y-DL(2)×NSH-50M/NSH-1RM | |||
+KE36(32) | KAW53 | -20 | Y-D×YF-15、Y-D×NB-55E、Y-DL(4)×NSH-50M/NSH-1RM/YK-D | |||
+KF36(32) | KAW54 | -40 | - | |||
KA40・KD40 | KAW52Y40 | 400以上 | 510~690 | 0 | 39 | - |
+KE40 | KAW53Y40 | -20 | Y-DM3×Y-DL(2)/NSH-55EM/NSH-1RM | |||
+KF40 | KAW54Y40 | -40 | - |
取得船級は、平成25年3月1日現在
※1:“+”は、上記鋼材も使用できることを示します(例:+KE36に該当する溶接材料→KA36、KD36にも溶接材料が適用できます)
5. 船舶製造工程別の溶接方法および当社溶接材料
大型船舶の製造方法は、船体を適当な大きさに分割製造を行い、それを継ぎ合わせて船体を完成させるブロック建造法が主流となっています。以下に、ばら積み貨物船(バルクキャリア)のD級鋼(表2中のKD○○)を想定し、各工程で使用されています溶接方法および当社溶接材料(ガスシールドアーク、サブマージアーク溶接)を以下に示します。SF-1、SM-1F、Y-D×NB-55Eなど汎用材料に加えて、当社独自のFCuB法やVEGA法なども幅広く使用されています。表5 内業工程で使用されている溶接方法および当社溶接材料の一例
継手形状 | 溶接方法 | 溶接姿勢 | 当社溶接材料 | |
平板の板継ぎ | 突合せ | 両面SAW・自動 | 下向 | Y-D×NB-55E |
内構部材の組立て | すみ肉 | GMAW・簡易台車 | 水平 | SM-1F、FCM-1F |
ロンジの組立て | すみ肉 | GMAW・HS-MAG法 | 水平 | SM-1F |
大板継ぎ | 突合せ | 片面SAW・FCuB法 GMAW・NSワンサイドマグ |
下向 | Y-DL×NSH-50M/NSH-1RM、YM-55H×SF-1 |
(曲り)板の板継ぎ | 突合せ | 片面SAW・自動 | 下向 | Y-D×NB-55E/YK-D/SB-51 |
(曲り)板の組立て | すみ肉 | GMAW・半自動 | 全姿勢 | SF-1、FC-1、SF-1V、SF-1×SB-41 |

HS-MAG法

FCuB法
表6 外業で使用されている溶接方法および当社溶接材料の一例
継手形状 | 溶接方法 | 溶接姿勢 | 当社溶接材料 | |
船底外板の組立て | すみ肉 | GMAW・半自動 | 下向 | SF-1×SB-41 |
タンクトップの板継ぎ | 突合せ | 片面SAW・自動 | 下向 | Y-D×NB-55E/YK-D/SB-51 |
タンクトップの組立て | すみ肉 | GMAW・簡易台車 | 水平 | SM-1F |
船側外板の板継ぎ | 突合せ | GMAW・エレガス GMAW・半自動 |
立向 | VEGA:EG-1×SB-60V、EG-3×SB-60V SF-1、SF-1V |
全般 | 突合せ・すみ肉 | GMAW | 全姿勢 | SF-1、SF-1×SB-41 |

VEGA法