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F080AWS A5.36 新訂に伴う当社「炭素鋼および低合金鋼用フラックス入りワイヤ」の対応について
1. はじめに
米国溶接協会規格であるAWS(American Welding Society)の炭素鋼および低合金鋼用フラックス入りワイヤの規格が2012年に新定されました。それに伴って当社製品についても、2015年4月生産分から該当規格を変更することになります。本稿では、新定されたAWS A5.36「炭素鋼および低合金鋼用フラックス入りワイヤ(概訳)」の概要と、当社溶接材料のAWS規格表示の移行方法について紹介します。
2. 該当規格と変更の概要
今回の変更の概要を図1に示します。従来のフラックス入りワイヤの規格であるA5.20(炭素鋼用)とA5.29(低合金鋼用)は統合されA5.36が新しい規格となります。また、メタルコアードワイヤについては、従来A5.18およびA5.28の一部として規定されていましたが、A5.36に集約されます。
図1 AWS A5.36新訂に伴う当社製品適用規格の移行
3. 当社フラックス入りワイヤ製品のAWS A5.36への移行スケジュール
当社フラックス入りワイヤ製品のAWS A5.36対応スケジュールを図2 に、当社代表銘柄のAWS A5.36対応表を表1に示します。今回の規格変更に伴い、当社では2015年3月末日生産分をもって、AWS A5.18,A5.20,A5.28およびA5.29に該当するフラックス入りワイヤ(SF-1,SF-3等)、およびメタルコアードワイヤ(SM-1,SM-1KA等)は旧適用規格を終了し、2015年4月1日生産分から、一斉にAWS A5.36に適用を移行します。
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図2 当社フラックス入りワイヤ製品のAWS A5.36 対応スケジュール

図2 当社フラックス入りワイヤ製品のAWS A5.36 対応スケジュール
表1 当社代表銘柄のAWS A5.36対応表
用途 | シールドガス | 銘柄 | 旧適用規格 | 2015年4月以降適用規格 | ||
Carbon steel (炭素鋼) |
CO₂ | SM-1 | A5.18 | E70C-GC | A5.36 | E70T15-C1A0-CS1 |
Ar-CO₂ | SM-1KA | E70C-GM | E71T15-M21A2-CS1 | |||
SM-3A | E70C-GM | E71T15-M21A4-CS1 | ||||
CO₂ | SM-1F | A5.20 | E70T-1C | E70T1-C1A0-CS1 | ||
SM-1S | E70T-1C | E70T1-C1A0-G | ||||
SF-1 | E71T-1C | E71T1-C1A0-CS1 | ||||
FC-1 | E71T-1C | E71T1-C1A0-CS1 | ||||
SF-1E | E71T-1C | E71T1-C1A2-CS1 | ||||
SF-3 | E71T-12C | E71T12-C1A2-CS2 | ||||
SF-3M | E71T-9C-J | E71T9-C1A4-CS1 | ||||
Ar-CO₂ | SF-1A | E71T-1M | E71T1-M21A2-CS1 | |||
SF-3A | E71T-9M-J | E71T9-M21A4-CS1 | ||||
Low-Alloy steel (低合金鋼) |
CO₂ | SF-3E | A5.29 | E81T1-GC | E81T9-C1A4-CS1 | |
SF-36E | E81T1-GC | E81T9-C1A8-K2 | ||||
SF-47E | E81T1-Ni1C-J | E81T9-C1A8-Ni1 | ||||
SF-50E | E91T1-Ni2C-J | E91T9-C1A8-Ni2 | ||||
Ar-CO₂ | SF-3AMSR | E71T1-GM | E71T9-M21A6-K6 E71T9-M21P6-K6 |
|||
SF-3AM | E81T1-GM | E81T9-M21A8-Ni1 | ||||
SF-36EA | E81T1-GM | E81T9-M21A6-K6 E81T9-M21P6-K6 |
||||
SF-50A | E91T1-GM | E91T9-M21A4-K2 | ||||
SF-70A | E101T1-GM-H4 | E101T9-M21A4-K2-H4 | ||||
SF-80AM | E111T1-K3M-H4 | E111T9-M21A2-K3-H4 |
4. AWS A5.36の主な変更点
① Fixed Classification SystemからOpen Classification Systemに変更従来、AWS A5.20,A5.29では、適用される鋼材によって、規格上選択できる溶接材料(溶着金属)の化学成分、強度、靱性レベルが限定されたFixed Classifi cation Systemが採用されていましたが、新しく制定されたAWS A5.36では、それらを自由に選択できるOpen Classifi cation Systemが採用され、国際規格ISOや日本工業規格JISの接材料規格と同様の規格体系となります。具体例として、図3に引張強さ80ksi級の全姿勢用フラックス入りワイヤにおけるAWSの区分記号の選択例を示します。AWSA5.29では、Ni1、Ni2およびK2の3種類の化学成分(溶着金属)しか選択できず、衝撃試験温度はそれぞれの化学成分で固定されていましたが、AWSA5.36では、任意の化学成分、衝撃試験温度、接後熱処理などを、与えられた区分記号から自由に選択することができます。
AWS | Classification System |
引張強さ (ksi) |
耐力 (ksi) |
溶着金属の化学成分の 区分記号 |
衝撃試験温度 (°F) |
溶接後熱処理 |
A5.29 | Fixed | 80-100 | 68以上 | Ni1 | -20 | 無し |
Ni2 | -40 | 無し | ||||
K2 | -20 | 無し |

AWS | Classification System |
引張強さ (ksi) |
耐力 (ksi) |
溶着金属の化学成分の 区分記号 |
衝撃試験温度 (°F) |
溶接後熱処理 |
A5.36 | Open | 80-100 | 68以上 | 例えば CS1、K2、K6、Ni1 |
区分記号から任意選択 (従来は規定されていなかった -80°F靭性要求にも対応) |
図3 引張強さ80ksi級,全姿勢用フラックス入りワイヤにおけるAWSの区分記号の選択例
AWS A5.36の分類記号の付け方と区分記号(抜粋)を図4に示します。前述の通り、Open Classifi cation Systemへの移行に伴い、化学成分、衝撃試験温度の選択肢が増え、細かく規定されています。
③ 拡散性水素の付加記号にH₂が追加
従来、フラックス入りワイヤのAWS規格(A5.20、A5.29)では、拡散性水素量を表す付加記号はH16,H8,H4の3種類でしたが、A5.36ではH2(2mL/100g以下)が追加されました。
5. おわりに
新しく制定された炭素鋼および低合金鋼用フラックス入りワイヤのAWS規格A5.36の紹介と、該当する当社製品のAWS分類見直しについて、ご紹介しました。本報が、お客様のご理解の一助になれば幸いです。
図4 AWS A5.36の分類記号の付け方と区分記号(抜粋)