技術情報溶接Q&A
F088JIS Z 3352 サブマージアーク溶接用
フラックス改正に伴う対応について
1. はじめに
日本工業規格JIS Z 3352サブマージアーク溶接用フラックスが2017年に改正され,JIS Z 3352サブマージアーク溶接及びエレクトロスラグ溶接用フラックスとなりました。それに伴い当社製品についても,2018年2月1日生産分から改正内容に対応することになります。本稿では改正前後のJIS Z 3352の概要及び当社溶接材料の表示方法の変更点について紹介致します。
2. 2017年版 JIZ Z 3352の主な改正点
JIS区分記号についての主な改正点を図1に示します。1)フラックスの用途の記号について,4は旧規格では,1及び2の規定の両方に適合するフラックスの記号でしたが,ISO規格に整合化するため,1~3の規定のいずれにも適合しないフラックスの記号に変更されました(表1)。
2)フラックスの化学成分を示す記号について,旧規格では14種類でしたが,ISO規格との整合化のため,CIに替えてCG-I,IBに替えてCB-Iに変更し,GS,BA及びAASを追加して17種類になりました(表2)。
3)旧規格では,フラックス中のCO.及びFeについて,いずれもフラックス全体量から分析で得たCO.量及びFe量を除いた量を全体量として化学成分の含有量を求めることを規定していましたが,ISO規格では,フラックスに意図的に添加した炭酸塩及び金属鉄について,分析で得たCO.量及びFe量を含んだ量を全体量として化学成分の含有量を求めることを,附属書Aに参考として記載しているため,2017年版では附属書AにISO規格の化学成分の計算方法を規定されています(表3)。この変更に伴い,2)でCG,CB,CG-I,CB-Iの化学成分範囲が変更されています。
また,粒度の呼び方などについての変更点を表4に,粒径とメッシュの対応表を表5に示します。粒度の表示方法がふるいの目開き(メッシュ)から粒径による表示に変更されています。
また,粒度の呼び方などについての変更点を表4に,粒径とメッシュの対応表を表5に示します。粒度の表示方法がふるいの目開き(メッシュ)から粒径による表示に変更されています。

図1 JIS記号の変更点
表1 フラックスの用途の記号
記号 | 継手溶接a) | 肉盛溶接b) |
1 | 軟鋼,高張力鋼,モリブデン鋼,クロムモリブデン鋼,低温用鋼又は耐候性鋼 | 左記対象母材と同じ成分系の肉盛溶接。ただし,硬化肉盛を除く。 |
2 | ステンレス鋼,耐熱鋼,ニッケル又はニッケル合金 | ステンレス鋼,耐熱鋼,ニッケル又はニッケル合金の耐食肉盛又は硬化肉盛。ただし,記号3の硬化肉盛を除く。 |
3 | -(継手溶接には適用しない) | 炭素,クロム,モリブデンなどの合金元素をフラックスから供給する硬化肉盛 |
4 | 【改正前】上記の“1”及び“2”の規定の両方に適合するフラックス | |
【改正後】上記1~3の規定のいずれにも適合しないフラックス |
注 a) 対象母材の材質で分類する。
b) 肉盛溶接金属の成分系で分類する。
表2 フラックスの化学成分(変更,追加のみ抜粋)
単位%(質量分率)
フラックスの化学成分の記号 | 化学成分 | 参考:フラックスタイプ | ||
改正前 | 改正後 | |||
CG | CaO+MgO | 50以下 | 5~50 | カルシア─マグネシア系 |
CO₂ | 2以上 | 2以上 | ||
Fe | 10以下 | 10以下 | ||
CB | CaO+MgO | 40~80 | 30~80 | カルシア─マグネシア─塩基性酸化物系 |
CO₂ | 2以上 | 2以上 | ||
Fe | 10以下 | 10以下 | ||
CG-I(改正前:CI) | CaO+MgO | 50以下 | 5~45 | カルシア─マグネシア─鉄粉系 |
CO₂ | 2以上 | 2以上 | ||
Fe | 15~60 | 15~60 | ||
CB-I(改正前:IB) | CaO+MgO | 40~80 | 10~70 | カルシア─マグネシア─塩基性酸化物─鉄粉系 |
CO₂ | 2以上 | 2以上 | ||
Fe | 15~60 | 15~60 | ||
GS | MgO+SiO₂ | ─ | 42以上 | マグネシア─シリカ系 |
Al₂O₃ | ─ | 20以下 | ||
CaO+CaF₂ | ─ | 14以下 | ||
BA | Al₂O₃+CaF₂+SiO₂ | ─ | 55以上 | マグネシア─シリカ系 |
CaO | ─ | 8以上 | ||
SiO₂ | ─ | 20以下 | ||
AAS | Al₂O₃+SiO₂ | ─ | 50以上 | 塩基性酸化物─アルミネート─シリカ系 |
CaF₂+MgO | ─ | 20以上 |
表3 化学成分の計算方法
区分 | 内容 |
改正前 | (2010年版JIS Z 3352 表2より抜粋) 注a)Mn,Si,Zr,Ti,及びAlは,それぞれ表中に規定した酸化物として化学成分を定める。 b)CaF₂は,分析で得たFの全量をCaF₂に換算した値とする。CaOは分析で得た全Ca量のうち,分析で得たFからCaF₂に換算されたCa分を減じた残りの量をCaOに換算した値とする。ただし,数値が負になる場合は,0とする。 c)ボンドフラックス又はボンドフラックスを含む混合フラックスの場合,フラックスが炭酸塩を含むときは,全体量から分析で得たCO₂を除いた量を全体量として化学成分の含有量を求める。 d)ボンドフラックス又はボンドフラックスを含む混合フラックスの場合,CO₂以外の成分は,注c)の取扱い後に評価するものとする。さらに,分析で得たFeの全体量をFeとし,CO₂及びFe以外の化学成分は,全体量[注c)の取扱い後のもの]からFeを除いた残りの量を全体量として化学成分の含有量を求める。 |
改正後 | (2017年版JIS Z 3352 附属書Aより抜粋) A.2 主要な化学成分 フラックスから検出された元素は,次に示す酸化物に換算する。 Al₂O₃,CaO,MgO,MnO,SiO₂,TiO₂及びZrO₂ A.3 フラックス中のふっ化物 フラックスから検出されたFは,CaF₂として報告することとし,CaOの量は次に示す式で計算する。 CaO=CaOtot -(0.7182×CaF₂) CaOtot:全CaO量 ただし,CaOの計算結果が0より小さい場合は,フラックスの化学成分の記号の決定には使用しない。 A.4 フラックス中の炭酸塩 フラックスに意図的に添加した炭酸塩は,CO₂量として分析を行う。 A.5 フラックス中の金属鉄 フラックスに意図的に添加した金属鉄は,Fe量として分析を行う。 |
表4 粒度の表示方法
区分 | 内容 |
改正前 | 製品の呼び方は種類及び粒度による。(2010年版JIS Z 3352 8項) ・対応メッシュによる表し方の例 :SFMS1-20×200 ・フラックス粒子の大きさによる表し方の例:SACB2AC-0.3~1.7mm |
改正後 | 製品の呼び方は,種類及び粒度による。粒度の表記は,粒径によって記載する。ただし,従来からの対応メッシュでの粒度の表記も存在することから,併記又はいずれか一方を表記してもよい。(2017年版JIS Z 3352 8項) ・粒径を優先的に記載し,対応メッシュを併記した粒度の表記例:SFMS1-75μm~850μm (20×200) ・粒径を優先的に記載し,対応メッシュを併記した粒度の表記例:SACB2AC-300μm~1.70mm(10×48) ・粒度の対応メッシュの単独表記例:SACS2-12×65 |
表5 代表的な粒径及び対応メッシュ
粒径 | 対応メッシュ | 粒径 | 対応メッシュ | 粒径 | 対応メッシュ | ||
2.36mm | 8 | 850μm | 20 | 212μm | 65 | ||
1.70mm | 10 | 500μm | 32 | 150μm | 100 | ||
1.40mm | 12 | 425μm | 36 | 106μm | 150 | ||
1.18mm | 14 | 300μm | 48 | 75μm | 200 |
※ 75μmより小さなフラックス粒子を意図的に添加するときは、下限を0μmと表記する。
また、対応メッシュで表す場合は、下限をDと表記する。
また、対応メッシュで表す場合は、下限をDと表記する。
3. 当社の2017年版JIS Z 3352対応方針及びスケジュール
今回の規格改正に伴い,当社ではフラックス粒度の表示を粒径(μmまたはmmの表示)を基本と改め,メッシュについても併記と致します。当社の主なフラックス製品のうち,適用記号に変更がある銘柄の対応表を表6に,粒度表示の対応表を表7に示します。
また図2に示しました通り2018年1月末日生産分をもってメッシュのみの製品表示を終了し,2018年2月1日生産分より粒径及びメッシュを併記した製品表示と致します(図3)。

図2 2017年版 JIS Z 3352改正対応スケジュール
表6 主なフラックス製品の適用記号(変更がある銘柄のみ)
溶融フラックス | ||
銘柄 | 旧適用規格 | 2018年2月以降 適用記号 |
YF-38 | SFMS4 | SFMS1 |
YF-40 | SFMS4 | SFMS2 |
NF-80 | SFCS4 | SFCS1 |
NF-HS3LHS | SFZ1 | SFBA1 |
NF-LP3 | SFZ1 | SFBA1 |
NF-LP3NB | SFZ1 | SFBA1 |
NF-LP3NBLH | SFZ1 | SFBA1 |
NF-HL9M | FS-FG4 | SFBA1 |
NF-300H | ─ | SFCS2 |
NF-500H | ─ | SFCS2 |
NF-80S | SFZ4 | SFZ1 |
NF-90S | SFZ4 | SFZ1 |
ボンドフラックス | ||
銘柄 | 旧適用規格 | 2018年2月以降 適用記号 |
YB-100 | SAZ1 | SACB1 |
YB-150 | SAZ1 | SACB1 |
NSH-50 | SACI1 | SACG-I1 |
NSH-53M | ─ | SACG-I1 |
NSH-52 | SACI1 | SACG-I1 |
NSH-53T | ─ | SACG-I1 |
NSH-53S | SACI1 | SAZ1 |
NSH-55E | SACI1 | SACG-I1 |
NSH-55EM | SACI1 | SACB-I1 |
NB-60 | SACI1 | SACB-I1 |
NSH-52M | ─ | SACG-I1 |
NB-100S | SAZ1 | SACB1 |
NB-52FRM | SACI1 | SACG-I1 |
NSH-55L | SAZ1 | SACG-I1 |
BF-12CV | SACG3 | SACB2 |
BF-CRH | SAZ4 | SAZ2 |
BF-Ctd | SAZ1 | SAZ2 |
BF-CVH | SAZ3 | SAZ2 |
表7 主なフラックス製品の粒度表示
現在の粒度表記 | 2017年版JIS Z 3352粒度表記 |
8×48 | 300μm~2.36mm(8×48) |
8×100 | 150μm~2.36mm(8×100) |
10×48 | 300μm~1.70mm(10×48) |
10×65 | 212μm~1.70mm(10×65) |
10×100 | 150μm~1.70mm(10×100) |
12×32 | 500μm~1.40mm(12×32) |
12×48 | 300μm~1.40mm(12×48) |
12×65 | 212μm~1.40mm(12×65) |
12×100 | 150μm~1.40mm(12×100) |
12×150 | 106μm~1.40mm(12×150) |
12×200 | 75μm~1.40mm(12×200) |
14×D | 0μm~1.18mm(14×D) |
20×100 | 150μm~850μm(20×100) |
20×200 | 75μm~850μm(20×200) |
20×65 | 212μm~850μm(20×65) |
20×D | 0μm~850μm(20×D) |
32×D | 0μm~500μm(32×D) |
48×100 | 150μm~300μm(48×100) |
48×150 | 106μm~300μm(48×150) |
48×200 | 75μm~300μm(48×200) |
48×D | 0μm~300μm(48×D) |

図3 新旧製品表示の一例
4. おわりに
以上JIS Z 3352サブマージアーク溶接用フラックス改正に伴う対応について紹介致しました。ご不明な点がございましたら当社までお問い合わせください。
(お問い合わせ先:品質管理部 品質管理グループ TEL 03-6388-9093)