NIPPON STEEL日鉄溶接工業株式会社

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技術情報溶接Q&A

F034鋼床版Uリブの開先無し深溶け込み溶接用フラックス入りワイヤSX-1F

はじめに

平成14年3月に道路橋示方書が改訂され、鋼床版Uリブのすみ肉溶接部の溶け込み率が新たに規定されました(溶け込み深さ≧Uリブ板厚の75%,図1~2)。

そこで、従来のすみ肉溶接用フラックス入りワイヤに比べ、安定した深溶け込み溶接を可能とする『*SX-1F』を新たに開発しました。この*SX-1Fを適用することにより、一般的に使用されている板厚6~8mmのUリブにおいて、Uリブの開先加工を省略した1パス溶接でも道路橋示方書の規定を満足でき、大幅な加工・製作コスト低減が可能となります。

以下に、*SX-1Fの溶接性能をご紹介します。

図1、2

SX-1Fの特長

●SX-1Fの基本設計
SX-1Fは表1に示すように、一般のすみ肉溶接用フラックス入りワイヤ(以下、FCW)と同じ金属粉系のFCWです。SX-1FはFCWの優れた溶接作業性を確保しつつ、かつソリッドワイヤと同等の溶け込み深さを得るため、フラックス充填率を従来の約半分まで低減しながらも、アーク安定剤およびスラグ組成の適正化により、スパッタの発生が少なく良好なビード形状を得ることができます。

表1 SX-1Fの仕様
フラックス系 金属粉系フラックス
規格 JIS Z3313 YFW-C50DM
AWS A5.20 E70T-1
ワイヤ径 1.4mmΦ
スプール重量 12.5kg、20kg、200kg



溶接姿勢 下向および水平すみ肉
極性 DC(+)
シールドガス CO₂
用途 軟鉄および490N/mm²級高張力鋼板の自動及び半自動溶接用として主に橋梁、造船、その他構造物に適用
●SX-1Fの溶接性能
(1)溶け込み性能
各種ワイヤを用いてワイヤ送給速度と溶け込み深さの関係を調査した結果を図3に、断面マクロ組織の一例を写真1に示します。図3から、*SX-1Fは一般の金属粉系FCWに比べ、溶け込み深さが大幅に向上し、ソリッドワイヤに迫る溶け込み性能が得られています。また写真1から溶け込み形状について、ナゲット幅が狭めのソリッドワイヤ(YGW11)に比べ、*SX-1Fは幅広のナゲット形状となるため、すみ肉溶接で安定した溶け込み率を確保するのに有利です。

図3

写真1

(2)溶着金属性能
SX-1Fおよび比較ワイヤにおける溶着金属性能の一例を表2に示します。SX-1Fはソリッドワイヤおよび一般の金属粉系FCWと同等の機械的性能を有しています。また、当社SF・SMワイヤと同じシームレスタイプのFCWであるため、溶着金属の拡散性水素量も非常に低いレベルとなっています。
表2

鋼床版Uリブ溶接への適用例

板厚6mmUリブの施工例として、図4に示す溶接施工条件によりSX-1Fと一般の金属粉系すみ肉溶接用FCWの溶け込み性能を比較した結果を写真2に示します。

一般の金属粉系すみ肉溶接用FCWは、ワイヤ送給速度が11.4m/min(溶接電流:350A)でも溶け込み率は最大60%程度であるのに対し、SX-1Fは8.5m/min(溶接電流350A)で溶け込み率が80%となり、道路橋示方書の規定値(溶け込み率≧75%)を十分に満足することができます。さらに、従来は開先加工が必要であった板厚8mmのUリブ溶接でも、SX-1Fでは溶接電流400~420Aで溶け込み率が80%以上となり(写真3)、開先加工無しでの1パス溶接が可能です。

図4、写真2、3
 

おわりに

以上のように、SX-1Fによる鋼床版Uリブの開先無し施工法を採用することにより、開先加工費や溶接ワイヤ使用量を削減できるだけでなく、大幅な作業能率の向上にもつながることから、橋梁製作におけるトータルコスト削減の一助になれば幸いです。