NIPPON STEEL日鉄溶接工業株式会社

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技術情報溶接Q&A

F035アーク溶接材料を対象としたPRTR排出量等の算出方法について

はじめに

1999年7月13日に「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(化管法)」が公布されました。
これは人の健康や生態系に有害な恐れのある化学物質について、事業所からの環境への排出量および廃棄物に含まれているものの事業所外への移動量を、事業者が自ら把握し、都道府県を経由して、国に対して届け出る制度で、PRTR(Pollutant Release and Transfer Register)制度と呼ばれています。

第1回目の届出(平成13年度)が終了し、今年の4月から平成14年度の申請がスタートしますが、本法に対応した算出方法を、弊社も参加している日本溶接棒工業会技術調査委員会MSDS分科会(以下、MSDS分科会)にて作成しましたので、ご紹介いたします。

PRTR制度の対象となるお客様

PRTR制度は、次の要件を満たすお客様が対象となります。
1.お客様全体での判断事項
・対象業種:政令第3条に示す23の業種(製造業は全業種が対象)
・従業員数:常用雇用者数21人以上

2.上記 1.を満たすお客様の各事業所での判断事項
・年間取扱量等:いずれかの第一種指定化学物質を1t以上、特定第一種指定化学物質は0.5t以上取り扱っている、または特定要件を満たす施設を設置している各事業所。

溶接材料に使用される主な第一種指定化学物質としては、Cr、Ni、Mn、Mo等があり、大まかな例を挙げると、1.2.を満たすお客様で、弊社溶接材料*SF-1(マンガンの含有率:2.0%)を、平成13・14年度の申請では250t以上、平成15年度以降の申請では、年間で50t以上使用する事業所、または+AS-1(マンガン含有率:2.5%)を、平成13・14年度の申請では200t以上、平成15年度以降の申請では、年間で40t以上使用する事業所があるお客様は申請対象となります。(実際には使用している溶接材料の銘柄に含まれる指定化学物質およびその量、また他の対象製品の使用量によって異なります)

以上から、平成15年度以降は、小中規模のお客様も対象となる可能性があります。 

PRTR排出量等の算出方法について

対象となった事業者は、溶接材料を使用した時に発生するスラグ、スパッタ、ヒュームの環境への排出量・移動量を把握しなければなりません。その算出方法についてMSDS分科会で検討し、「アーク溶接を対象としたPRTR排出量等の算出方法について」と「溶接工程用作業シート(算出プログラム)」を作成しました。

本算出方法について以下に示します。

(1)算出の基本的な考え方
算出方法については、前述の通り溶着金属・スラグ・スパッタ・ヒュームに含まれる指定化学物質の排出先・移動先を把握する必要があります。

しかしヒュームに関しては、一度大気へ放出され、その後冷却されると地面に落下します。集められたヒュームが廃棄物として移動されるか、そのまま地面に放置されて土壌への排出となります。そこで、事業者がヒュームの移動量と排出量を把握している場合は「廃棄物」と「粉じん(土壌排出)」に(図1)、把握していない場合は「大気への排出」(図2)となります。

本算出方法では、スラグ・スパッタ・残材はすべて廃棄物への移動としております。

図1、2
(2)算出方法について
算出方法については、鋼種毎の代表銘柄の成分分析値等を参考に溶着金属中およびヒューム中の指定化学物質の移行率(表1~2、抜粋版)、残材率等を用いて計算する方式としました。(表1~2に示す各種数値はあくまでも参考値ですので、お客様でデータがあれば、そちらをご使用下さい)

表1

表2
この移行率と化管法に準拠したMSDSに記載されている各銘柄の指定化学物質の含有率を用いて、溶着金属およびヒューム中に含まれる指定化学物質の排出量・移動量を計算します。残材・スラグ・スパッタについては、すべて廃棄物(鉱さい)として移動するものとし、溶接ワイヤ中の指定化学物質の年間取扱量から、先に計算した溶着金属およびヒューム中の指定化学物質の排出量・移動量を減算した量とすることで、複雑になりやすい溶接工程の計算を容易にしております。その算出手順を図3に示します。

表3
(3)溶接用工業シート
排出量・移動量の計算を容易にするために、計算ソフトを作成しました(エクセルファイル)。本ソフトに、各溶接材料の年間取扱量、MSDSに記載されている指定化学物質の含有率、溶着金属中およびヒューム中の移行率等をインプットすることで、排出量・移動量が自動的に算出できます。

ただし、本作業シートはその内容を保証するものではありません。お客様の責任においてご使用下さい。

おわりに

以上のように、「アーク溶接材料を対象としたPRTR排出量等の算出方法」および「溶接工程用作業シート(算出プログラム)」を用いることで、複雑な溶接工程の指定化学物質の排出量・移動量を容易に計算できます。本算出方法および算出プログラムは、各支店へご連絡いただくか、エクセルファイルをダウンロードしてください。本算出方法が、お客様の申請手続きの一助になれば幸いです。